紅茶の香り (相棒)/ドラマ軸
カチャン。とカップをテーブルに置いた。
やけに響いたその音は、特命係の部屋がこんなにも広かったかと錯覚させるような大きさだった。
相棒、亀山薫が特命係を去ってから早一ヶ月。
時が過ぎるのは早い、とこの部屋の主、杉下右京は毎朝のルーティンをこなしながらもうここにはいない相棒を思い出していた。
雨が降り始め、梅雨に入ろうかという時期でした。
初めて会ったとき、君はまだ捜査一課から移動してきたばかりで、暴走しがちな、青い正義感を持つ人でした。
君とは何度もぶつかり、時に助け、助けられ。
君の真っ直ぐ過ぎる正義は、僕にとって眩しかった。
でも、毎日を共に過ごしていく中で、とても良い信頼関係を築けていけた。
だから、君が本当にやりたいことがあり、その想いが強くなっていたのも強く感じていたのです。
そして君は、自分の進みたい道へ歩いていきました。
この紅茶の香りをかぎ、飲むたびに僕は君を思い出します。
それは何故なのか?
君が、美和子さんと共にプレゼントをしてくれたからですよ。
自分はお茶のことなんてよく分からないから、美和子と一緒に選びました。
と少し照れくさそうに笑いながら渡してくれた、大切な一品です。
僕はとても嬉しかったんですよ、亀山君。
貰ったその夜、花の里で、たまきさんに自慢するくらいに。
亀山君。君が今進む道は、とても困難な道でしょう。
でも君なら必ず叶えられると僕は信じています。
真っ直ぐなその心を忘れなければ、絶対に大丈夫です。
僕はいつも、この特命係の部屋から、君を応援していますよ。
では、またどこかで。
些細なことでも
トントントン、と包丁の叩く音に目が覚めた。
目覚めの腹を刺激する香りに、幸せな気持ちで起き上がる。
寝室から出てキッチンに向かうと、愛しい人の姿があった。
流れるような手さばきは、毎度のことながら綺麗だと思う。
ーまあ、僕にとってはいつでも可愛いいんだけど。
そんなことを思いながら足音を忍ばせて近づき、そっと腕をまわした。
「おはよう、悠仁。」
「おはよ、悟さん」
「うん。おはよ、ゆーじ。今日の朝ごはんなーに?」
自分でも驚くくらいに甘い声が出た。
「今日は和食!玉ねぎの味噌汁と、卵焼きと、しゃけとご飯!あ、あと昨日の小松菜のやつまだ残ってるからそれかな!
悟さん、今日久しぶりにお休みだろ?ゆっくり食べれるからパンじゃなくてご飯にしたの」
なんてことないように言われた言葉が、とても嬉しかった。
繁忙期で任務が多く、今日はひと月ぶりの丸一日オフの日。
きっと、任務続きでパンばかりだったから、と自分を気遣ってくれたのだろう。
健康的なメニューのラインナップに自分を思ってくれているのが分かって、まわした腕に力を込めた。
「うは、悟さん、危ねえって」
笑いながら、でも嫌がられていない声に、たまらなくなった。