踊りませんか?
斜陽が優しく左頬をさす
まるでピアノ椅子に座る私にスポットライトを当てるようだ
ぽろん。
心の空気感を読むように柔らかい音が、音楽室に響く
最近のブームであるワルツを足場を確かめるように奏でる
穏やかな世界に新たな光を差すように、かなちゃんが視界の端からひょこっと現れた
「踊ってもいい?」
スポットライトを浴びた彼女がそう言うと、私は手を止めることなく目線だけでいいよ、と言った
心地よくワルツのリズムを刻む私と、それに合わせて彼女が好きなバレエを踊るかなちゃん
その空間は間違いなく2人だけの世界で。
言葉を交わすことなく2人は、この手を離さないことを誓った。
巡り会えたら
君と僕の髪が風でなびく。
2人の間には初対面の間柄のような、親しい仲のような空気感が漂う。
じゃあね、と互いの心に伝えあって
またいつか巡り会えたら
奇跡をもう一度
君の笑顔がなくなってからもう2年が経つ。
小さい頃は泣いてばかりだった君が、いつの間にか貼り付けたような笑顔ばかりを見せるようになった。
たまに陰る顔を見て、僕まで辛くなったりもした
君を、すくってあげたかった
全身血まみれの君を抱き抱えた時、徐々に冷えていく身体に僕まで冷えていくようだった
周りの喧騒すら聞こえず、君の細い息の音が僕を包んだ。
君の笑顔がなくなってからもう2年が経つ。
僕は君をすくう奇跡を願い続けている。
たそがれ
日が落ちるスピードが増すこんにち
ぼくはそのスピードについて行けるだろうか
駅のホームで彼女を待つぼくは、思わず目を奪われた
たそがれにスマホのレンズを向けた
「見て!めっちゃきれい!!」
と送信した数秒後、
こっちからも見えるよ
と声が聞こえた気がした
きっと明日も
きっと、きっと明日もいつもと変わらない日になるだろう
だけど、だけどもし君の心が少しでも変わったなら
きっと、きっとわたしも変われるから
そのための布石を今日打っておこうと思う
「あなたのこれからの1部をわたしに下さい」
腰までのばした長い髪を揺らして、ぼくは指輪を差し出す
君は「もちろん」と頷いてくれた
2人だけの逃避行が今から始まる