きっと明日も
きっと、きっと明日もいつもと変わらない日になるだろう
だけど、だけどもし君の心が少しでも変わったなら
きっと、きっとわたしも変われるから
そのための布石を今日打っておこうと思う
「あなたのこれからの1部をわたしに下さい」
腰までのばした長い髪を揺らして、ぼくは指輪を差し出す
君は「もちろん」と頷いてくれた
2人だけの逃避行が今から始まる
鐘の音
ジリリリ
ジリリリ
ジリリッ
耳もとで騒ぐ時計の動きを勢い任せに止め、カーテンも朝2番の力で一気にひらく。突然の明るさに目が萎縮する
毎朝聞いているこの音で起きれない人は、どのように起きているのだろう
私の朝はいつもこの音からだ。
プルルル
プルルル
プルルル
電話の音で焦って、先ほど止めたばかりの時計を見ると
打ち合わせの時間から30分ほど過ぎていた
プルルル
プルルル…
眠気が危機感に変わり、鳥肌が立つ
止まる気配がないスマホを枕で押し潰した。
目が覚めるまでに
もう1ど目がさめるまでにやりたいこと!
・お花に水をあげる
・近くにすんでいるねこにごはんをあげる
・お̶と̶う̶と̶第とあそぶ
◎まい日たのしくすごす!
所どころ誤字のあるメモを枕元に残してねたきりの兄は、夢の中で毎日楽しくすごせているだろうか。
僕はたしかにあんたの弟だが、第という名前ではない
これが弟という漢字を間違えて第と書いてしまったという事に気づくのは、随分後の話だ。
病室
ゆらゆらと真っ白なハネが舞う
目を固く閉じ、祈るように手を組む人々をちらりと見る
ベッドに横たわるこの人がそんなに大切なのだろうか
ぼくは光をほとんど宿さない眼をじっと見つめ、近づいた
細い首を、強い力で握りしめる
それと同時にピーという音が病室に鳴り響く
耳を貫くような悲鳴を聴きながら振り返らず部屋を出る
毎日毎日これの繰り返しだ
ブラック企業と呼ばれる人間の会社よりよっぽどブラックではなかろうかとぼくは思う
これまでずっと
つり革を掴む手が少し震える。呼吸も呼応するように短く震える。周りの人がちらりとこちらを間隙から覗くのが分かる。
ずっと。ずっとずっとずうっと耐えてきたこの気持ちに決着をつけるため、電車に揺られる。
ここから遠く離れた場所に越したあいつを○○○ために
LINEのアイコンに触れ、あいつにメッセージを送る。
「電車乗ってるよ!そっちも乗ってる?」
すぐに来たバイブ音のあと返信を薄目で見る
「ちょっと顔上げてみて」
あいつがにやりと笑うのが視界に入った
今から僕はあいつの初恋を殺す。
覚悟はもうできている。