8月2日、この日は私の誕生日である。
小さな頃からまさに盛夏を感じる暑さだった。
とはいえイヤになることもなく私は暑さと仲良く過ごしていたし、だからこそ毎年両親に希望する誕生日プレゼントのスイカがとても美味しく楽しめるのである。
しかし近年は肉体の経年劣化の賜物なのか、それとも気象の変化で暑さの質も変化したのか、片方かもしれないし両方かもしれないが、私の体も暑さと仲良く過ごせない日が増えてきた。
それでもスイカを始め、この季節は私にとって1番美味しい季節なのだ。
野菜も果物も、本当に1番美味しいと感じている。
どの季節の食べ物も美味しいが、私にとってはこの季節が1番美味しいのである。
季節が巡り年月を重ね、小さな頃と比べると暑さと仲良く過ごせなくなってきても、私にとって1番楽しく美味しく幸せな季節だ。
きっとこの気持ちはこの先何年経っても、よぼよぼになっても変わらないだろう。
これまで私が生きてきた年月の中で、いろいろな食べ物も食べたし、そのそれぞれに一緒に食べた人がいる。
家族・親戚・友人・その時の恋人。
全員が口を揃えていうのだ。
「夏の食事が1番幸せそうだね」
当然である。
だって私にとっては1番美味しいのだから。
私は【美味しい】と【楽しい】はだいたい同時に感じている。
だからこの季節に一緒に食事した人のことはとても楽しい思い出になっているのだ。
今年も私の誕生日が巡ってきた。
私にとって1番楽しい季節の始まりだ。
この季節になる度に私はこう思っているのだ。
「夏がおわらないでほしい」
この季節が終わる度に私はこう思っているのだ。
「はやく夏にならないかな」
私はあと何回この季節を思い出にできるのだろうか。
願わくば、来年以降のこの季節には生涯のパートナーとの【美味しい】と【楽しい】が増えていてほしい。
これは私のささやかな、でも1番ワガママな願い事なのである。
わたしが長いこと大切にしていたものがゆるやかに形を崩し、
ぽた、ぽた、ぽたり。
こぼれ落ちてゆくのです。
あなたを想い、あなたを大切にしていた、
そんなわたしがどんどん形を崩してゆくのです。
それはまるで甘くて冷たいアイスクリームが、
周囲の温度で溶けてゆく様によく似ているのです。
あなたからわたしに向けられる温度が変わり、
あなたを大切にしていたわたしの形が溶けて崩れてゆくのです。
わたしは冷凍庫から出したばかりの、
かたくてカチカチのアイスクリームを楽しむことが好きなのです。
アイスクリームを準備したのに、
わたしはうっかり考えごとをしてしまって、
気がつけばアイスクリームは形を崩して甘い雫が、
ぽた、ぽた、ぽたり。
あなたへのわたしが形を崩してこぼれ落ちる様に、
とてもとてもよく似ているのです。
わたしもアイスクリームも、
こぼれ落ちた雫は二度と元に戻ることはできないのです。
ぽた、ぽた、ぽたり。
目に見えるものがすべて。
そうまでは断言しないものごとではあるが、
伝わらなければ存在しないことと大差ないということは、
すべての人が認識しておくべき前提である。
「やさしさ」なんてものはそのくらい、
主観的で不確かで、とても曖昧なものでしかないのだ。
自分がどんなに相手を思っていたとて、
1ミリも伝わっていないのなら、
あなたが相手を思っているものは、
相手にとってこの世に存在していないものなのである。
緑が芽吹くにおい
田畑に肥料が撒かれたにおい
草刈りをしたにおい
水路に水が通るにおい
草花の花びらがほころぶにおい
雨が降る前のにおい
雨が降ってるときのにおい
朝露に濡れそぼった紫陽花のにおい
蛙の命が潰えてしまったにおい
湿気った土のにおい
太陽に熱されたアスファルトのにおい
道を通る車の排気のにおい
夏野菜のほのかに青臭いにおい
蚊取り線香や虫刺されアイテムのにおい
ロウソクとお線香のにおい
植物の緑がくすんでいくにおい
きのこの元気なにおい
焼き芋のホクホクあまいにおい
植物の枯れてゆくにおい
枯葉も散り尽くした冷たくカサついたにおい
初霜がおりたにおい
初雪が降ったにおい
大雪のあとの澄みきってツンとした朝のにおい
つららがたくさん連なったにおい
福寿草が雪をかきわけたにおい
雪どけ水が流れるにおい
季節がめぐることをにおいが教えてくれる。
においは風が運んで知らせてくれる。
めぐる季節を運ぶ風をこれからも楽しめる、
そんな私でありたい。
まるで夢のような
そんなキラキラとした
胸が躍る幸せな時間でした