『君は花になる』
絵を描かせてくれと頼んで
描かせてもらうことになった
私は告白はしないと決めていた
溢れんばかりの太陽の光を
青いカーテンで
左右から押さえつけて
前にあなたを椅子に座わらせる
あなたの長い髪が
鈍い光沢を帯びて
小さな肩の向こうに流れ
白のワンピースが静寂を広げだす
それでいて瞳は暗く
わたしを映している
透明のゆびさきから遡るにつれて
健康的な白さになってゆく
一週間ほどで描き上げた
部屋にはあなたの肖像画が飾ってある
絵画とは枯れない花だ
たとえ私がいなくなって
この絵が火につつまれてしまっても
わたしはそれでもいいと思える
なぜならわたしは
この肖像画よりも暗い瞳した
あなたと見つめ合う時間があったから
この絵を描いたあと
あなたは私に
「美しい」とだけ言い残して
二度と会うことは無かった
『きみの唄』
きみの唄が書けたんだ
きみが唄になったんだ
やわらかい五線譜のそのうえに
きみの声をつらねたら
きみの唄ができたんだ
おちないようにノートにとじて
きみのもとに届けに急ぐ
きみはすぐに歌うだろう
きみはすぐに思いだすだろう
きみ自身がこんなにも
美しいということを
「母の言葉」
「私の子どもたち、生きて!」
私の母はそう言って力を無くした
私たちは母のその言葉で
一斉に母の胸元から飛び出した
すぐに私の後ろで兄弟たちは
涙を流されたり
悪いやつらに喰われた
私は怖くて必死に逃げた
母とは晴れた日に一緒に散歩をした
強い雨が水面に穴をあけるそんな日は
母は私たちにおおいかぶさってくれて
水草の鳴く陰で夜を明かした
私はそんな日々が幸せだった
時間は川の流れが押し流していって
私にも子どもたちが生まれた
母が私にしてくれたことを思い出して
この子たちの無事を
祈る日々の繰り返し
雨の日は大変だったけど
思い返してみれば幸せ
日に日にたくましくなる子どもたち
たぶん私は痩せている
だけどこれも幸せなこと
今は子どもたちの声は聞こえるけれど
かわいいはずの顔が見えないの
それだって幸せなことなのかもしれない
でもちょっと悔しい
あの時の母の気持ちが
私もやっと
わかった気がしてる
だから君たちに
力を込めて伝えるね
「私の子どもたち、生きて!」
「素晴らしい夜に」
こんなに星が潤って
月明かりも透く夜ですから
こころのなかの虚しさを
打ち明けましょう
こんなに夜がやわらかく
誰もが深い眠りの夜ですから
胸にしまった展望を
打ち明けましょう
こんなに素晴らしい夜だから
大人のコートは羽織らずに
互いの美しさを
探しましょう
わたしはあなたの
あなたはわたしの
「薔薇から」
大人になれたら花になれ
小さな花の二つ三つで構わない
雨ならひらけるだけでいい
大きな花に嫉妬はするな
大人になれたら花になれ
綺麗すぎない花がいい
綺麗な花になれたとしても
枯れゆくことに無理はするな
大人になれたら花になれ
瞠(みつ)められない花でいい
瞠められないからと
自分が愛されない理由をそれでつくるな
大人になれたら花になれ
自分を愛する香りにも
正当な根拠が必要なのだ
火のとおりかけた薔薇から
風が聞こえる
秋のときめき
手の甲の明滅
蟻の輝き