うぐいす。

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7/16/2024, 6:55:47 PM

 雨が鬱陶しい、という一言に尽きる。傘をさしていても、足元はぐちょぐちょになって、靴下びちょびちょで不快極まりないので、切実に、梅雨は早く去ってほしい。
 などと考えながら、隣にいる友人と、せっせと土を掘る。雨の中、わざわざレインコートを着てまで・・・、なんで俺はこんなことをしているんだと、夜更け過ぎにも関わらず、常識という二文字を知らない友人から電話がかかってきたことを思い出しながら、シャベルを握る手に力を込める。
 えーっと、あの時なにを言われたんだったか。ああ、そうそう、確か、あれだ。今夜は朝にかけてずっと土砂降りだから、見通しが悪くて、そして人目に付きづらくて、更には土が掘りやすくて、なんとなんと土砂崩れが起きやすくて、土の中に人が埋まっていたとしても、とてもじゃないけど途方もない徒労を通して捜索することになりそうだから、絶好のチャンスなんだって、そういう話だったっけ。
 ところで、これから埋めようとしているのは一体どちら様? と友人に聞けば、お前、と返ってきたので、ウケるwと言ってやった。

7/7/2024, 1:54:15 PM

 今日は七月七日ということで、うちは笹の葉なんて飾らないし、短冊だって書かないけれど、天の川を見上げるくらいはタダなのだから、親に許可を貰った私は、近くの公園まで出て行って、天体観測をした。一年に一度、たった一日だけの逢瀬をする彦星と織姫・・・、ロマンチックだとは思いつつ、私だったら、好きな人に一年に一度しか会えないのは辛いなぁと考えて、茹だるような暑さの中を歩く。ようやく公園まで辿り着いたと思ったら、私の知らないうちに封鎖されていたらしい、立入禁止の紙が貼られていた。なんてこった。子供時代、いや、少年時代の思い出が・・・、あの歌、良いよね。夏になったら一度は聞く。とまあ、そんな理由で、天体観測ならどこでも出来るか、と思い直し、公園の側で一人上を見上げた。
 うん。ビル群の明かりで全然見えん。駄目だこりゃ。

7/7/2024, 8:37:59 AM

 ずっと一緒だよ、と小指を絡ませたのは、女友達との思い出。
 遥か昔の思い出。
 七月七日の七夕の日、短冊に記した願い事は、好きな人と両想いになりたい、という、使い古された恋物語のキャッチコピー。
 諦めが悪いのは、私の長所であり短所なのだけれど、流石に今回のこれは、自分でも笑ってしまうくらい酷すぎる。
 彼女はもう、別の人と幸せになったのに。
 不幸せになればいい、なんていうのは、これは、あれか。可愛さ余って憎さ百倍ってやつか。
 まあ、そうだよね。だって私、聖人君子じゃないもの。私の方がずっとずっと好きだったのにどうしてなの、と情けなく喚いてしまうのだ。
 そういう奴なのだ。
 だから、だからせめて、今夜は。
 土砂降りにでもなってしまえばいいと、思わずにはいられないのだ。

7/5/2024, 12:41:10 PM

 拝啓、彦星様へ。
 厳しい暑さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
 私の家では、先日彦星様に頂いた朝顔が芽を出しました。健やかに育ってくれることを祈って、毎日水をあげています。無事開花した暁には、是非彦星様に写真をお送りしたいと思います。
 さて、ひょんなことから、ただの人間風情である私が、天の川の傍で畜産に励んでいる彦星様と友好を結んだことは、記憶に新しい出来事ですが、貴方様と初めてお会いした際には、まさか、かの有名な彦星様と、このように手紙のやり取りをするようになるなどとは、想像もしていませんでした。何故ならば、私は彦星様のことを推したいしていますが、貴方様には、長年恋慕っていらっしゃる御相手方がいるからであります。
 貴方様から恋愛相談を頂きましたその後は、織姫様とはいかがお過ごしでしょうか。週末は―――七夕の日は、曇のち晴れの予報となっていますが、万が一という可能性は捨てきれませんので、この度私は、てるてる坊主というものを作成しました。織姫様のお父様とされている方への神頼みというのも、幾分可笑しな話ではありますが、少しでも、貴方様の恋模様に太陽が差しますことを、地上から祈っております。

 追伸。
 運命の赤い糸、というものを妄信していらっしゃる貴方様に、別封して赤い縄をお送りします。どうか、私の『赤い糸』をお納め頂けますよう―――冥界から、祈っております。

 月下老人より☆

6/30/2024, 10:46:21 AM

 私の彼氏が気持ち悪い。
「一度は引き離された俺たちも、たった一日という短い、しかし長い期間を過ごすことが赦されたわけだ。これを幸運と言わずしてなんと言う?」
「偶然」
「やはりオレたちは運命の赤い糸というもので繋がれているに違いないんだよ!」
「うわ、本当に気持ち悪い・・・」
 運命の赤い糸。それは、所謂都市伝説といわれるもので、人の目には視えない細長い一筋の希望。その糸で結ばれたもの同士は、意図せずとも結ばれるのだと言う。そんな眉唾ものの噂を、彼は信じているというのか。信じて、それに縋っているのか。そんなものなどなくても、私たちは、もっと現実的なもので繋がっているのに。
「え、なに?」
「電話線」
「オレは声だけじゃなくて姿も見て話したいんだ!!」
「あ、そろそろ着るね。電話代嵩むといけないから」
 待ってくれ、と叫ぶ彼氏に、私は容赦なく受話器を置いた。ガチャンッと大きな音が鳴る。毎晩毎晩、電話をするというのも、疲労が溜まるのだ。もちろん私だって、愛おしい彼と話すことが苦なわけではないのだけれど、それとこれとは話が別というわけで。
 それに、
「もうすぐ会えるのだから」
 充分じゃないか、と。
 一週間後の今日という日に、赤く丸が付けられたカレンダーを見ながら微笑んだ。
 晴れると良いな、貴方と逢うために。

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