「きらめくよるに」
今更泣いたってあの子は帰ってこない。
こんな夜景の綺麗な部屋なんか借りるんじゃなかった。
涙の中で街灯が乱反射する。
もう、きらめきしかみえない。
ふと立ち上る残り香。
熱い夜のあとにあの子が残したタバコ。
灰皿ごと全部、ゴミ箱に放り込む。
窓を開ける。部屋と夜景が溶けて、境目がなくなる。
もういらない。
あんな夜、私には無かった。
あんなきらめきも、私には無かった。
絹のぬくもり
しずかに香るナイトムスク
ステンドグラス燈のゆらめき
森と星と風のささやき
月明かりがつつみこむ
夢みる魔女のちいさな塒(ねぐら)
小さい頃は、
お嫁さんになってあげる!なんて言ってくれてたのに
今じゃすっかり美少女主人公とモブ男子Aだ
お嬢様学校の制服、似合い過ぎてて
こんなんじゃすぐ彼氏できるに決まってて
てかもうすでにいるかもしんなくて
なんかもう色々ツラい
春の日向でキラキラ光る君物語とは
交差する見込みのない日影の俺物語
こんな所、来るんじゃなかった。
好奇心で入り込んだ廃墟の地下洞窟は、歩いてる間に崩れてきて、轟音と共に元来た道が塞がれてしまった。
スマホは圏外、バッテリー残量もわずか2%。時刻は21:41。
涙が出てくるが、泣いてる場合ではない。
ふと、LINE音がなり、すがる思いで、スマホを見る。
アヤからだ。
残量は1%。
そのスマホ画面の光が、細く険しい道の先をかすかに照らしてくれた。
…扉が見える…!
扉を開くと、そこには泣いてるアヤがいた。
混乱しながらも、LINEの文面が脳裏をよぎる。
アヤ {たすけて} 21:32
{崩れた でられない} 21:33
紅茶も冷めてきて
なんとなく口数が減ってきて
そろそろ終電だからって
帰り支度をみまもるこの寂しさがきらい
泊まってく?だなんて
酔ってたら言えたのかな
しずかな部屋に残されたのは
紅茶の香りと私だけ