【 仲間 】
仲間とは何か。
互いを敬い、助け合う存在か?
いや、私にとっては、ただの仕事相手だ。
勇者として身を立てるべく、パーティを組んだ。
各々が自身の得意分野を活かし、共通の敵を倒していく。
だが、それが何だというのだ。
己の身は己で守るのが基本、足りないものは補って。
当たり前の事をするのに感謝など必要か?
ただ、次第に相手の素性や個性を知っていく内に、
いずれパーティが解散したとしても、付き合っていきたい奴らだと思うようになった。
あぁ、これがそうなのか。
敬うとは、こういう思いを言うのか。
それを抱く相手を仲間とは呼ぶのなら、
このパーティはそうなんだろう。
ボスを倒したら、今度はこのメンツで旅に出てみよう。
【 手を繋いで 】
幼い日の思い出。
あの人に手を引かれて、その背中を見つめながら帰る。
親の代わりに迎えに来てくれるその人を、尊敬していた。
自営で忙しい親の代わりは、叔父だった。
体を壊したからと、子どもの相手をさせられるのは、
複雑な気持ちだったかもしれない。
とはいえ、親よりも長くいるから、懐くのは当然だ。
どんな遊びにも付き合い、イタズラをしたら叱って。
本当に、親代わりの存在だった。
だから、突然いなくなってしまった虚無感は、計り知れない大きさで襲ってきた。
泣く、という行為すら忘れ、呆然とする。
大人になったら、子供の手を引いてあげよう。
子供心に決意した、ある冬の出来事だった。
【 ありがとう、ごめんね 】
君とは、いわゆる幼馴染みで、ほぼクラスも同じで。
日中の大半の時間を、共に過ごしてきた。
お互いに一人っ子で、家族ぐるみの付き合いもあって、
兄弟のように育ったというのは本当だ。
だから、君の考えることなんて、お見通しなんだよ。
卒業したら、今度こそ別の道を歩き始めるけれど、
それを応援したくて、でも寂しくて。
複雑な思いは、ほら、顔に出てる。
この後、きっと言いたいことがあるって呼び止めるね。
「何?」
「ねぇ……好きだよ…」
これも、予想通りの内容だ。
両思いなのは分かっていたけど、自覚した時からそれが
叶わない、叶えるわけにはいかないと気付いていたんだ。
それを、君に知られたくなくて、でもずっと変わらない思いを抱いていてほしいと、利己的な考えを押し付けてしまう。
やり場のない思いは、やはり顔に出る。
困った哀しい笑顔を向けるしか出来ないのを、
どうか許してほしい…。
【 部屋の片隅で 】
いつも、決まった場所にいると気付いたのは、
もはやいつのことだったか分からない。
そこから動くこともなく、話すこともない。
ただ、そこに『いる』のだ。
同居人、と言って良いかは微妙だが、お互いの存在は認識できている。
(何でいるんだろう?)
そう思うだけで、相手に干渉しようという気は無い。
この部屋が、いわゆる事故物件というのは承知している。
そんなところに好んで来る者は、変わり者と思われるのも無理はない…と、相手も思ってるのだろう。
さて、取り憑くか、憑かれるか。
どちらが先に音を上げるか、静かな勝負が今日も続く。
【 逆さま 】
落ちる… 落ちる…
暗闇を、ただ堕ちていく――。
きっと、罰が当たったのだ。
数えることもできぬほど多くの人を傷つけ、
ある人は命を絶ち、ある人はまた他人を傷つけに走る。
もし自分が神の立場なら、許す要素を見出だせない。
今さら悔やんだとて、遅すぎる。
抗いたくとも、藻掻く手はすでに無い。
羽代わりにされては困るからと、もがれてしまっている。
一体どこまで行けば底が見えるのか。
上か下かも分からぬ形で、ひたすらに堕ちていく。
そして唐突に、体が弾ける瞬間を迎えるのだ。