るった

Open App
12/7/2023, 12:56:57 PM

【 部屋の片隅で 】

いつも、決まった場所にいると気付いたのは、
もはやいつのことだったか分からない。
そこから動くこともなく、話すこともない。
ただ、そこに『いる』のだ。

同居人、と言って良いかは微妙だが、お互いの存在は認識できている。
(何でいるんだろう?)
そう思うだけで、相手に干渉しようという気は無い。

この部屋が、いわゆる事故物件というのは承知している。
そんなところに好んで来る者は、変わり者と思われるのも無理はない…と、相手も思ってるのだろう。

さて、取り憑くか、憑かれるか。
どちらが先に音を上げるか、静かな勝負が今日も続く。

12/6/2023, 12:50:10 PM

【 逆さま 】

落ちる… 落ちる…
暗闇を、ただ堕ちていく――。

きっと、罰が当たったのだ。
数えることもできぬほど多くの人を傷つけ、
ある人は命を絶ち、ある人はまた他人を傷つけに走る。

もし自分が神の立場なら、許す要素を見出だせない。
今さら悔やんだとて、遅すぎる。
抗いたくとも、藻掻く手はすでに無い。
羽代わりにされては困るからと、もがれてしまっている。

一体どこまで行けば底が見えるのか。
上か下かも分からぬ形で、ひたすらに堕ちていく。

そして唐突に、体が弾ける瞬間を迎えるのだ。

12/5/2023, 3:47:09 AM

【 夢と現実 】

夜、寝るのが楽しみだ。
入院生活で、これといった楽しみもない僕には、
夢の世界だけが何よりも大事だった。

宇宙飛行士になって、宇宙遊泳したり。
体育教師のときは、子どもたちと本気でスポーツしたり。
デキるサラリーマンなんてのも面白かったな。

朝目覚めて、夢は夢に過ぎないことを痛感するのも、
もはやルーティンだ。

次第に夢を見なくなる日が多くなって、意識も朦朧状態。
自然と、自分の終わりが近いことを察するようになる。
もう、夢見た職業に就くのはもちろん、夢見ることさえ、
僕には許されなくなってしまうんだな…。

(来世とかあるなら、丈夫な体がほしいもんだ…)

意識を手放した僕は、目覚めるんだろうか?
恐怖を感じるよりも早く、僕は必然の眠りについた。

願わくは、これこそが夢であってくれと祈りながら。

12/4/2023, 7:37:13 AM

【 さよならは言わないで 】

大事にされてきたという自負がある。
あなたを着飾ってあげられること、誇りに思うわ。

不運な事故とはいえ、私の役目は終わったの。
もう、あなたのためにしてあげられる体じゃないもの。

もちろん、離れがたいわ。
こんな体になったこと、その原因だって憎い。
だからといって、あなたを困らせたいわけでもない。
もともとが寿命ってやつよ、逆らえないの。

でも、きっと戻ってくるわ。
私たちだからこそできること…。

あなたの手元に、再び。
新しいガラスの器を纏って、ステキな香りを届ける日まで、
またね。

12/2/2023, 3:42:53 AM

【 距離 】

「オレ、今日1着だったんだぜ!」
「ワタシもよ。これで連勝なの」

今日も、競走馬たちがお互いの近況報告をしている。
年間の出走数は多くないから、勝ちを得るのは重要だ。

「でもお前は長距離だろ?スプリンターの方が速いから、オレの勝ちだな!」
「何言ってんだか。持久力ならワタシの勝ちよ」

顔を合わせると挨拶代わりのケンカが始まる。
距離の違うレースでどちらが上かなど比較しようもない。
100m選手とマラソンランナーのどちらがすごいかと決めようがないのと同じだ。

「なら来週、同じレースで勝負しようぜ!」
「1800mなら受けてあげるわ。でも、来週は無理でしょ」
「オレならやれるぜ!」
「ちゃんと休むのも仕事よ」

今日も平和な、競走馬たちだった。

Next