【 微熱 】
何度見ても、かっこいいなと思う。
見た目はもちろん、人間的にも魅力的だ。
同性の目から見てそう思うのだから、異性は当然だろう。
周囲からの熱視線を向けられて、彼はどう思うのか。
少なくとも、嫌悪することはないだろう。
むしろ、彼自身はどんな目線を向けるのかが気になる。
ふと、彼と目が合った。
ふわりと柔らかく微笑まれたのは、気のせい…じゃない。
胸の奥が一瞬、締め付けられたように感じた。
(え、何で…)
どうやら、彼の熱にあてられたらしい。
近い内に、熱視線を送る側になるかもしれないな。
いやホント、魅力的な人間はツミだな。
【 セーター 】
『手作りのものって、抵抗ありますか?』
潔癖症とは思っていないが、改めて聞かれると困る。
よく、手作りのお菓子とか貰うが、それは問題ない。
美味しいものに罪はないし。
でも、何だろう。
職場の後輩から手渡されたコレは、すごく困った。
柔らかい、いかにも衣類感のある一品。
趣味でよく作っているのかもしれないが、
気軽にプレゼントするものではないはずだ。
その分、気持ちがより込められているのは言わずもがな。
少なくとも、嫌われているわけではないんだろう。
嫌がらせとかじゃなければ、だが。
むしろ、貰ってしまって良いのだろうか?
君の気持ちごと、受け取ってしまうよ?
構わないなら、遠慮なく着ることにしよう。
【 夫婦 】
貴方とは、お店で会ったのが最初だったわね。
似た者同士、隣合わせに並んで、お互いの事を話したわ。
ずっとこんな時が続いたら…と思い始めた矢先、
一緒に新居に住むことになって。
突然の事に驚いたのなんのって。
それからは本当に、長い時を共に過ごしてきたわ。
体のあちこちにガタも出始めたけれど、それほどの時を
経てきたのよ。
だから、貴方のいない未来に、何の希望もないわ。
新しいお相手を連れて来られても、何も感じないの。
私のペア茶碗は、貴方だけなのだから…。
【 どうすればいいの? 】
それはいつも、突然やってくる。
自分の意思とは無関係に、たくさんの思いを込められて、
最後を色んな形で迎えることになる。
ほんの一分ほどで体は完全に満たされ、ふわりと浮く。
軽い体はキライじゃないが、終わりの始まりだ。
子どもたちに投げ回されたり、紐で連れ回されたり。
時には一瞬で破裂させられて。
それが存在意義だと言われればそれまでだが、
単体では儚い存在なのを、憂うこともある。
玩具として、長く子どもたちに遊んでもらいたい一方で、
思いの丈を詰めて消えゆくのも一興。
はてさて、風船としての正解はどれだろうか?
【 キャンドル 】
暗闇に、小さな炎がぽっと灯る。
あちらでは、弱い炎が揺らめいて消えた。
新たな生命と臨終の命だ。
番人をしていて思う。
ヒトは、儚い生涯を懸命に生きて、何を為すのだろう。
灯された炎は、風もないのに揺らめいて、
人生の岐路などの不安定さを示す。
ふらふら、ゆらゆら、何を目指しているのだろう。
番人には、そんな思考すら不要だ。
ただ、何者からも邪魔されぬよう、見守るだけ。
今日もまた、点いて、消えて。
輪廻の数すら忘れ、ただ見守るだけなのだ。