【 一筋の光 】
その日は、いつも通りの1日だった。
強いて言うなら、家族は揃って旅行中というくらい。
ひとり飯が淋しいなんて、実家暮らしのワガママだが、
家族のありがたみを痛感した。
ベッドに入って、意識を手放しかけた時。
激しい揺れに襲われて、起き上がるのもままならない。
木造の年季の入った我が家はあっけなく崩れて、
挟まれている体は痛みを訴えている。
命の終わりは呆気ないものだと、他人事のように思う。
そんな瞼の裏に、明かりを感じた。
微かに、呼ぶ声も聞こえる。
待って!そっちに行きたい!
それだけが、今の自分の拠り所だ。
他には何も考えられない。
たとえ、空へ続く道筋だったとしても…。
【 哀愁をそそる 】
夕日が奇麗に見えると人気の丘に、貴方と二人、
誰もいない時に出掛けたね。
思いが通じ合ってからのパートナー生活の中で、
そこだけは、人気が出るより前からの常連だね。
丘は、ただ小高いだけで周りには何もない。
広い公園の一画だけど、遊具もほとんどなくて。
子供よりも、散歩する大人向けの場所だ。
だから、のんびり過ごしたい時なんかに、よく訪れたね。
ゆっくり歩き回ったり、芝に寝転んだり。
喧嘩した時もよく来たっけ。
頭が冷えた頃を見計らって、迎えに行ったりもした。
今も、一人になりたい時には必ず寄るんだ。
貴方と過ごした思い出の場所だから、
面影を追いかけたくて。
さすがに、誰もいないタイミングはほとんどないけど、
二人で見てきた景色は、目の奥に焼き付いてる。
貴方に、会いたいな…。
【 鏡の中の自分 】
自分の顔がキライ。
大きな瞳も、高い鼻筋も、魅惑的な唇も、何も無い。
かといって、理想の顔に作り変える勇気も無い。
周りは皆、個性に溢れたステキな顔をしてる。
表情豊かで、生を謳歌してるのが伝わってくる。
そんな中に自分もいるけど、本当にいていいのかな…?
自分のことを、皆は邪魔に思わないかな…?
「ワタシはキミの顔、好きだな」
本当に…?
「だって、どんな顔も作り出せるじゃない」
…そうか、そうだ。そうなんだ。
鏡を覗き込んでも何も無い、何のパーツも存在しない顔。
変える必要なんてないんだ。
好きな時に、好きな顔にすればいい。
のっぺらぼうで良かったと、心から思えたよ。
【 眠りにつく前に 】
なかなか寝つけない?
じゃあ、面白い話を聞かせてあげよう。
見えるようで見えない世界のお話。
あるところに、魔王討伐を控えた勇者がいました。
来たる日に備え、装備などの準備を整えています。
次第に高まる緊張感で、眠りの浅い日が続きました。
ある日、どうしても寝つけない勇者は、剣を取り出し、
素振りすることにしました。
ほどよく疲労したところで再び寝床へと向かうと、
宿の主人が待っていました。
勇者のために、温かい飲み物を用意してくれたのです。
それを飲み干すと、急に体が重くなり、眠気が襲います。
その時、宿の主人が不気味な笑みを浮かべていたのを、
勇者は見逃しませんでした。
耐え難い眠気に苛まれながら、剣を支えに堪えます…。
それからどうなったかって?
主人が魔王だったんだよ。
だから、勇者は食べられてしまったんだ。
可哀想にね…。
怯えなくても大丈夫だよ。
ほら、お前も勇者のように食べてあげるからね…
【 永遠に 】
この気持ちは墓場まで持って行く。
そう決めて、貴方の側にいることを最優先に生きてきた。
貴方に想い人ができても、喧嘩しても。
常に『親友』という名の特等席を独占してきた。
でも、限界は来る。
側にいるからこその、難しい立ち位置。
苦しくて辛くても、吐き出すことは許されないのに。
だから、気持ちは告げずに、記憶に残ってやろうと思う。
思い返せばたくさんの思い出が鮮やかに再生される。
それを抱えて、葛藤するこの世界から旅立とう。
そんな気持ちは、筒抜けだったのか?
貴方が先に逝ってしまうのは、想定外だ。
同じことを貴方が考えていて、先に旅立つなんて。
悔しいな。
初めて通じたこの思いは、来世まで持ち越しじゃないか。