『昨日と違う私』
いつだって私には欲しいものがあって
毎晩ほんの少しだけのお願い事をする
ふ、と目を覚ませば明日になっていて
いつの間にか今日は昨日になっている
明日になれば欲しかったものかどうか忘れられて
明日になれば元より欲しくなかったとすら思える
昨日までの私達は無駄なんかじゃないって思う
昨日までの私達は踏み躙られなかったって思う
いつだって私には欲しいものがなくて
毎朝ほんの少しだけのお願い事をする
拭えば忘れられるぐらいの気持ち達が
窓の外の小雨となって降り続いている
『Sunrise』
星屑をなぞるように言葉を吹き込む
ゆっくり、ゆっくりと
あなたの目に映る泡沫が月を追い遣った
もうすぐ雲に抱かれたお天道様がうまれ
惜しむように、悲しむように
産声のような光がわたしを包む
慈しむように、慰めるように
産声のような光があなたを包む
いつか待ち望んだ夜明けがここにはあって
生温い涙を拭い、小さな小さな欠伸をした
『影絵』
影で手を繋ぐ私たちは
惚けた蝋燭の夢を見る
蕩けて、蕩けて、蕩けきって
火傷のような恋を知る
あなたによく似た影が残るこの海に
あなたによく似た影が残るこの坂に
あなたによく似た影が残るこの駅に
まだ熱を残したフィルムを重ねている
『大好き』
好きが、欲しい
人に向かった好きが
ものに向かう好きが
向けてもらう好きが
愛が、愛のままでいられるように
何かを、憎まなくてもいいように
混ざり合わぬままに手を取り合えるのなら
たった、たった一度だけ愛されたい
たった、たったの一度だけ愛したい
それが私の人生へ捧げる、大好きだ
『叶わぬ夢』
あの日吐き出せなかったままの熱を
やけに甘い添加物と一緒に飲み込む
溶けきった涙すら懐かしむように
私という形を思い出させるように
取り返しがつかなくなる直前で
一掬いの夢に中毒を起こす直前で
気持ちがせり上がってしまう直前で
爛れたままの私の喉が漸く音を立てる
今になって何故思い出したのだろう
目の前の景色が滲んでぼやけていく
今になって何故思い出したのだろう
聞こえてくる声で意識は濁っていく
今になって何故思い出したのだろう
今になって何を思い出したのだろう