【何もいらない】
万年筆さえあれば、他の筆記具はいらない。
手書きの原稿を書く機会が多かった私は、割と本気でそう思っていた。鉛筆やシャープペンシル、ボールペンなどなど、一般的によく使われている筆記用具を用いておっそろしく筆圧が弱々な私が書いたものは、かすれていたり薄かったりしていることが多く、見返した時に非常に読みづらくて嫌だった。
そんな私にとって、万年筆は 「(筆圧的)弱者の味方」だった。どんなに少ない力でも一定量のインクが出るので、書くことそのものがとても楽しくなった。
私が万年筆にハマったきっかけは、あるCDのジャケット写真に写っていたアーティスト直筆の手書き歌詞だった。リリース後のラジオ番組で、アーティスト自身がその写真に関するエピソードを披露してたと知人が教えてくれた。机の引き出しに眠っていた万年筆を取り出し、一文字に5分くらい時間をかけて丁寧に書いたものだったそうだ。
憧れの人で同じものを使ってみたいという、とても単純かつ純粋な乙女心(自分で言うのもアレですけど)から私は万年筆と巡り会うこととなる。最初に手にしたのは定価1,000円と安価なものだったが、とても書きやすく相性がよかった。たまたま近くに万年筆を多く扱う店があったこともあり、詳しい使い方やより深い楽しみ方を知ってしまってからは驚くほどのハイペースでペンとインクが増えていった。
で、冒頭のような思いに達したのであったが最近になって少しだけ変わり始めている。というのも、この春から新しい仕事で4Bの書写鉛筆なるものを使ったところ、これが大変使い心地がよくて。以前使っていた鉛筆はHBやBあたりで、初めて使った4Bは力を入れなくても濃い黒色の文字が浮かび上がってきてとても新鮮だった。しかも、間違えたら消しゴムが使えるというのも重要なポイントだった。万年筆で書き間違えると修正テープを貼るので「あ、ここ間違えたのね」というのが明白になってしまう。どんなに濃くても、鉛筆ならコソコソっと消しゴムで証拠隠滅できてしまうのはある意味魅力的だった。
というわけで、あらためてお伝えしたい。
万年筆と4Bより濃い鉛筆があれば何もいらない。
いつか、10Bの鉛筆使ってみたいなぁ〜
【もしも未来を見れるなら】
見たいっ!
見たいですっ‼︎
贅沢は言いません。
遠い未来なんて見えなくていい。
ただ、できることなら
明日の夜の自分を見せてほしい。
なぜなら…
夕飯、何にしたのか知りたいからっ‼︎
(毎日の献立決めるの、大変なんですよ、はい)
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ただ、もうひとつだけ見られるのなら
「もしも」の未来を見せてほしい。
中学のとき同級生になったあの子の未来。
病気で早くにこの世を去ることになってしまった
あの子の「もしも」が見られたなら…
干支を一回り以上した今でもやっぱり
ふとした時にあの子の笑顔を思い出す。
この先、更に10年20年の月日が流れても
きっと同じことを思うだろう。
あの子の「未来」に会いたい、と。
【無色の世界】
ちょうど今読んでいるウェブコミックの中に、
余命半年と宣告された死神さんの物語がある。
それを読みながら、ぼんやりと
「あぁ、この世にはさまざまな色があるけれど、この世を離れたらまったく色のない世界になるのかなぁ」
と思った。
あの世=無色の世界
…かどうかは行ったことはもちろんのこと、
風の噂で見たことも聞いたこともないので
本当にそうであるかどうかはわからない。
ただ、私たちが生きているこの世界は
たしかに数多くの色で「彩られて」いる。
一口に「赤」や「青」といっても、
実は何百、何千という種類の色名がつけられている。
彩りに満ち溢れたこの世界は時として疲れるけれど、彩りが全く無くなった「無色の世界」に行きたいとは
思わない。だから、この世で出会う全ての彩りを大切にこれからも生きていきたい。
ただ…
色とりどりのインクをこれ以上増やすのは考えものだよな。たぶんもうとっくに100色超えてるし。
【桜散る】
盛大に咲き誇っていた庭の桜が散り、一抹の寂しさを覚える今日この頃…などと感傷に浸る時間などまったくない。実際、庭では入れ替わるように栃の木の葉が生い繁り、白躑躅もひしめき合うように咲いている。
そして私は、部屋の片付けの真っ最中だ。
そもそも、桜が散りゆく少し前のこと。
長年勤めていた店が移転するのに伴い、
私の仕事も半ば強制的に終了してしまった。
これはこれで私の中の「桜散る」だったが、見方を変えれば「新たな花を咲かせるチャンス」でもあった。元々、複数の仕事を抱える多忙な日々だったので、自分自身の「働き方改革」を進めるためには絶好の機会だった。
とはいえ、今までとは違う生活のリズムに戸惑い、掛け持ちしていた仕事先でも×0年目にして新たな業務を覚えることとなり、思い描いていた改革とはまた違う方向へ歩むこととなった。
仕事で気を張ってる分、家事は「死なない程度」にこなすだけでほぼ手付かず同然だった。特に、夜寝るためだけに入る自室の現状は悲惨だった。精神的にも肉体的にも片付けや掃除を余裕は全くなく、その結果ありとあらゆるモノが増え続けることとなった。
そして、今。私は大変困っている。
探しても探して見つからない失せ物たちが
溢れかえるモノたちの中に潜んでいるのだ。
ゆえに本日、私は朝から自室にこもり、
部屋の清掃並びに失せ物を大捜索することとした。
片付け、というよりも埋められた…いや、勝手に埋没してしまった財宝を探す「宝探し」に近いのかもしれない。そう考えると、これから夕方まできるであろう捜索作業も何とか乗り切ることができるだろう。
「桜散る」ことで、新たに得られたこの機会を、
私は私なりに大切にしていこうと思っている。
とりあえず、最近失くしたスーパーのポイントカードと使い慣れたマイバッグを見つけることが今の私に与えられた最重要課題だ。
【ここではない、どこかで】
ここではないどこかで、私ではない誰かが…いや、必ずしも私ではないとは言い切れない人物が、さまざまな人生のストーリーを紡ぐ。それが、小さい頃から現在にいたるまで続く、私の真夜中の過ごし方だ。
物心ついたときには既に、もう1人の自分のような少年が傍に存在していた。可愛いガールフレンドとただただ無邪気に遊んでいる子だった。自分に近い、それでいて自分ではない少年は、現実には同じ年頃の子どもが近くにいなかった自分にとって唯一無二の存在だった。
それからずっと、夜は彼の人生を歩むための時間となった。家族との縁は薄く、ひょんなことからラジオパーソナリティとして採用された彼は、大好きな音楽から役者の世界へ足を踏み入れる。さまざまな役柄を演じることとなった彼の姿を、毎夜ベッドの上で追い続けているのだ。
彼を取り巻く人もまた、現実に存在する人にかぎりなく近い別の人だ。限られた時間の中で、無限に広がる「ここではない、どこかで」の物語。今宵も彼らがまた新しいストーリーを紡ぎ出すのだろう。
あぁ、今から寝室に行くのが楽しみだ。