【海の底】
「水の中で泣いてる人に気づけるようになりなさい。」
こんなの以心伝心してなきゃ無理だっつの。
ただでさえ、自分が苦しんでいるのにも気づかないのに
なんで他人のことを気にしなきゃいけないんだよ。
「僕は水の中で泣いてる人には気付けないけど、隣で泣いてくれる人には気づける。」
自分の見える範囲でいいってことを君に気付かされた。
なにもかも海の底に置いてきた自分がまるで馬鹿みたい。
【美しい】
頑張る君が誰よりも美しいとか、道に何気なく咲いている花が妙に美しいとか思ったことがなかった。
あれは小説や歌による妄想だと思っていた。
でもそれは間違いだった。
今、僕の隣で笑っている君が誰よりも美しいと思えた。こんなの初めてだ。戸惑っている僕に君は言った。
「笑ってる君が一番美しいよ」
【ずっとこのまま】
「バンドマンがアーティストに恋って可笑しいかな…」
「そ?俺は良いと思うけどな…ね」
「うん、僕も良いと思うよ!」
こいつらは知らない。
僕が言うアーティストは“同性”だっていうこと。
でも相手も、僕らのバンドのことを褒めてたしファンだって言ってたし…ワンチャンあるかもって…。
こっそりライブに参戦して、このファンって言う立ち位置の方がいいのかな。
それなら、ずっとこのままでいいのかな。
【寒さが身に染みて】
「…寒い」
「ですね〜、あっ手でも繋ぎますか?」
「馬鹿野郎…今運転中だよ」
「あ…はは、ごめんなさい」
「…今度…いつ会えますか、」
「えっ…えっと、まだ予定が決まってなくて…」
「……そっか。」
こんなに泣きそうで顔が赤いのは、寒さが身に染みて
いるからだろうか。
【雪】
今日は雪が降っている。
こたつから出てこない君を引きずり出して外出することに
「雪も降ってんじゃん…最悪、」
「引きこもりすぎるんだよ」
口を尖らせて嫌味文句を言うと君は笑って
「はは、何その顔。かわい」
と頬を撫でてきた。
「…別に嬉しくないし、」
「このツンデレめ」