【涙の理由】
あの日流した涙の理由は僕には理解できなかった。
恋愛報道が出てしまって、引退ライブをする僕ら。
報道が出たメンバーは、僕の相方として活動して来た人。
僕はその事実を知ったとき、凄く悔しかった。
悲しいより嬉しいよりめでたいより、ずっと醜い感情。
あの日言った言葉がライブ中でも脳裏に復唱される。
「アイドル卒業まで抜け駆けは許さないからな?」
【踊りませんか?】
初めて来た舞踏会。皆、綺麗に着こなしている。
もちろん、僕もこの日のために慣れないタキシードを。
会場は早くももう賑わっている。
僕もお話ししたいな、と思いワイン片手に歩を進める。
すると、次第に会場は静寂に包まれていった。
原因はこの、黒のスウェットに黒のジャージの中年男性。
“場違い” そう思った。けど、僕は一目惚れした。
「一緒に踊りませんか?」
その男性に一目散に駆け寄り、声をかける。
僕より背の低い彼が、上目遣いで僕を見やる。
すると…
「趣味が悪いですね。」
そう言って僕の手を取り、外に促される。
外は少し肌寒く、空は暗い青に澄んでいた。
【喪失感】
医者のせいで俺の大切な人が死んだ。
過去にも、一人の大切な人を失ったことがある。
一人目は、俺がこの手で殺した。
二人目は、他人の医療ミス。
二回も大切な人の心臓が破裂する瞬間を見た。
一回目は実際に俺がやって、二回目は画面越しに。
ああ、俺が手術をしていなければ助かったのに。
ああ、俺が手術をしていれば助かったのに。
【踊るように】
付き合ってる距離なのに付き合ってない関係が好き。
でもそんな時間はすぐになくなること、分かってるんです
「好きなら『好き』って言いなよ」
違う。今の関係が一番好きで落ち着くの。
「彼、貴方のこと気になってるらしいよ」
それはそれでありだけど、今の関係以上は望まないの。
【些細なことでも】
「今日調子悪い?予定変更するか。」
「そこ気にしなくていいよ。僕がやっとくから。」
いつもメンバーの心配ばかりするボーカル。
周りの人ばかりを見ていて、自分には目もくれず。
ある日、ボーカルは突発性難聴になった。
「心配しなくて大丈夫です。
ただ薬の副作用で頭痛だったり体調はすぐれないけど。」