【飛べない翼】
みんな僕を置いてゆくから僕も必死についてゆく。
そのうち僕と一緒に歩んできた君を僕は置いてゆくんだ。
それが嫌だから今度は後ろを向こうとするけど
そんな余裕もないくらいに僕は忙しくなっていた。
みんな僕を置いてゆく理由がやっとわかった。
みんな自分で一杯一杯だったんだって。
みんな飛べない翼を今、作っている途中なのだと。
【脳裏】
君のことを思うと手が震えてしまう。
なんでだろう。考えても分からない。
“恋”だなんて、絶対に認めたくない。
だって今の関係が一番良いんだから。
それでも君のことを考えると胸が高鳴る。
隣に立ちたい、なんて思ってしまう。
なんて人、身近にいませんか?
【意味がないこと】
今日、初雪が降った。
結構積もって自転車登校は禁止になってしまった。
でも冬の間は親が学校まで送ってくれる。
帰りは歩きになってしまうけど…。
でも帰りは時々、君と帰れるから悪くない。
君の家の前まで行って少し立ち止まって二人で雑談。
途中まで見送ってくれる君に独占欲が満たされる。
「ダメって分かってるのに…馬鹿だなぁ、自分。」
【涙の理由】
あの日流した涙の理由は僕には理解できなかった。
恋愛報道が出てしまって、引退ライブをする僕ら。
報道が出たメンバーは、僕の相方として活動して来た人。
僕はその事実を知ったとき、凄く悔しかった。
悲しいより嬉しいよりめでたいより、ずっと醜い感情。
あの日言った言葉がライブ中でも脳裏に復唱される。
「アイドル卒業まで抜け駆けは許さないからな?」
【踊りませんか?】
初めて来た舞踏会。皆、綺麗に着こなしている。
もちろん、僕もこの日のために慣れないタキシードを。
会場は早くももう賑わっている。
僕もお話ししたいな、と思いワイン片手に歩を進める。
すると、次第に会場は静寂に包まれていった。
原因はこの、黒のスウェットに黒のジャージの中年男性。
“場違い” そう思った。けど、僕は一目惚れした。
「一緒に踊りませんか?」
その男性に一目散に駆け寄り、声をかける。
僕より背の低い彼が、上目遣いで僕を見やる。
すると…
「趣味が悪いですね。」
そう言って僕の手を取り、外に促される。
外は少し肌寒く、空は暗い青に澄んでいた。