お前、今日が真空膜をつける日だな。
地球の大気がなくなる日に向けて、宇宙の真空に上手く調和できるようにと、18歳になった人は真空膜を着用する義務がある。
ちょっと緊張してる?大丈夫だ。俺を見ろ!なんの後遺症もなく元気だろ!
真空膜をつけた人の中には、身体の対応が追いつかなくて、寝たきりになった人もいるという。だからやる前に気絶する人やわざと骨折なんかをして、期間を遅らせようとする人もいるらしい。
私は朝から落ち着こうと必死なのに、こいつはずっとうるさい。こっちは今繊細なんだ。
私は勢いよく机に顔を突っ伏した。それなのにまだおしゃべりを続けている。
うるさいうるさいうるさい
だまれ
感情のまま腹の奥底から出た。すぐにやってしまったと思った。けどもう手遅れで、顔を上げることができない。気まづい沈黙が続く中、小さくごめんと言われた。それから、誕生日おめでとうと弱々しく言ったあと、ガタンと目の前からあいつの気配が消えた。放課後、静まり返った教室でなぜか泣きたい気持ちになった。あいつなりに励まそうとしてくれたのに、どうしよう。そういえば、あいつの兄が寝たきりになったと聞いたことがある。一気に罪悪感が襲ってきて、ギュウと袖を握った。
.伝えたい
じーじーじー
そういえば、すみれん家ももうニンゲン植えたらしいぜ
マァジ!みんなやんの早すぎねえ!?
オレらの学校ではニンゲンの観察日記が課題として出された。最近、ニンゲンの種が育てると便利!と話題になっていて、学校の宿題はその延長線のようなものだ。
いや、お前普通だろ。育てんのには相当時間かかるぞ。バラの野郎は年少まで育ったって。
はあ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?はええって!
育てるといっても役立つようにするには、それなりに金も時間もかけなければならない。
あーあどっかに落ちてねえかなあ。頭良くて、運動できて、なんでも出来る、従順な植木鉢。
お前が主人になるニンゲンは気の毒だな。
うるせえ三葉。オレのはなあ、都会に出ても図太く生きてく根性あるやつに育てんだよ。
何言ってんだタンポポ。ハッ確かにお前、コンクリに生えたりするもんなあ。
笑いながらオレを叩く三葉にイラッとしながら、ニンゲンの種を選んでいく。
バラだったらきっと優秀なニンゲンになるんだろう。丁寧に手間暇かけてそうだし。でもオレにはバラのような財力もないし、気品もないから、とりあえずヒトとして腐らせないように、を目標にする。
ニートだけは避けてえな...。
マジでお前のニンゲンにはなりたくねえ。
オレと共にするニンゲンはどんな風になるんだろう。ごめんな、でもオレんとこで精一杯面倒見てやるからさ、大きくなったら親友になろうぜ。
.この場所で
ねえねエ
聞いた?昨日のアの子
踏み潰されちゃったラしいよ
食糧を巣まで運ぶ途中、後ろから聞こえてきた。
列から外れてヒトりでいくからこうなるんだよ
やっぱリみんなと一緒が一番イイよね
アいつは昨日、女王様のところへ行って独り立ちを宣言していた。世の中にはこうも馬鹿なやつがいたもんだと、その時は思った。
アーア。でもいいサ!
働き手はまだまだいるんダから
そうだよヒトりいなくなったくらいで困らないヨ
ガヤガヤとみんな口を揃えて笑っていた。
突然、フッと辺りが暗くなった。会話もピタッと止まった。
どよめきが走るなか、少しの風圧に押されてフワッと身体が浮いた。
どうやらボクたちも例外ではなかったらしい。それならアいつみたいに一度外へ出てみるのもよかったかもしれない。
.誰もがみんな