目が覚めるまでに
朝5時の空気は一日で一番柔らかいに違いない。
いつもより早く目が覚めて、隣から聞こえる規則的な寝息を妨げないようにそろりそろりとベッドを出た。
慎重に鍵を開け、ベランダに出る。空は炭酸の抜けたラムネみたいな色をしていて、巻かれるのを待つわたあめみたいな雲が漂っている。
なんて平和な夜明けだろう。あと少しで烈火の如く陽射しが降り注ぐとは思えない。
涼しい内にコーヒーを淹れよう。思い立ってベランダから上がる。
今ドリップして冷蔵庫に入れれば、まだ夢の中のあの子が目覚めるまでには美味しいアイスコーヒーになるだろう。
病室
ここから見る夏は固くてくすんでいる。
早く連れ出してほしい。どこに?わからない。
足に血液の循環を促す機械を着けられたまま漠然と思う。
あなたのせいではないのに、あなたは申し訳なさそうにいつも謝る。
あなたと宿した奇跡。次こそは産声を上げるかしら。
いつからか期待は抱けなくなった。
窓から見える花壇の向日葵は、俯いたきり動かない。
明日、もし晴れたら
「明日晴れたらシーツ洗濯するかぁ。」
眼鏡を外した晶が言った。僕はなんともないみたいに、うん、と軽く返事をしてベッドに寝転んだ晶の隣に潜り込む。
シーツがベランダで風にはためくのを想像して、ふっと目元の力が抜けた。夜の静けさが僕達を包んでいる。
晶がした欠伸がふわりと空気を揺らし、彼はゆったりと息を吐き出して僕の隣で心地のいい場所を探すように身動ぎした。
僕の腕に身体をくっつけたまま、時間を要さずに晶は寝息を立て始める。
寝入る早さは本当に小学生の頃から変わらない。彼を起こさないようについ少し笑った。
「…おやすみ。晶。」
「……んん…。」
僕達は元々幼馴染だ。それが時を重ねて、パートナーになった。
過去のお泊まりの星屑を集めるようなときめきを抱えたまま、今は同じ家に住んでいる。
明日の天気が二人事である事実に口角を緩めて目を閉じた。
明日晴れたら公園行こうなんて言っていた幼い横顔を思い出しながら、昔と変わらず明日の晴れ空を願って眠りに就く。
だから、一人でいたい。
君は、さながら僕の人生の光だ。
だけど僕と君はただの幼馴染。君には、異性の恋人が出来た。
僕は君の光を受けてちょっとは明るくなれたけど。
でもこれからはそれじゃ駄目みたい。
今までは天文学部員っていう立場を言い訳に、今日は満月だよなんて写真を送れたけど。
これからは違うね。
君の光から僕は自立しなくちゃいけない。
だから、今夜の満月は一人で見る。
でもつい少しだけ、月を見て思い出すのは僕からのLINEならいいななんて願ってしまうけど。
今は一人でいたい気分なだけ。そう自分に言い聞かせるよ。
澄んだ瞳
貴女の瞳 世界を包む空の色
私はずっと見ていたい
その瞳が夜明けの恵みを浮かべるのを
その瞳が煌めく星を瞬かせるのを
その瞳が雨を降らせる時は 私が一番近くに居たい
空から降った貴女は私に起こった奇跡
澄んだ瞳が真っ直ぐに私を見た日から 私の世界は輝き始めた
あなたの瞳 世界を癒す森の色
私はいつも救われる
その瞳が私を受け入れて木漏れ日の光を浮かべる時
その瞳が私を受け止めて太陽の光に輝く時
その瞳に雨が降る時は 私があなたを癒したい
優しさで私を包むあなたを 私は必ず守り抜く
澄んだ瞳が優しい光を浮かべた日から あなたは私を導く光