真岡 入雲

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7/6/2024, 7:24:28 PM

名前を覚えてる

ヨシエちゃん

笑う時いつも口に手を当てて
首を少し左に傾けて
ふふふって笑う

ユウキちゃん

いつも一緒に
手を繋いで
走り回っていた

お絵描きしている時
二人がじっと私を見て
唐突に言ったんだ

『どうして瞬きしないの?』

何のことかよく分からなくて
どういう事か聞いたら
絵を描いている間
全然瞬きしていないから
不思議だって言われて

自分は全然知らなくて
意識してやっていた訳じゃなくて

『わかんない』

って答えたら、何故か3人で
瞬きガマン競争する事になって

きっとあの頃はあの頃で
悩みとか色々とあったと思う
でも今はそんな思い出なんかなくて
ただただ二人の笑顔だけが
朧気に思い浮かぶ

他の子の名前も顔も
全然思い出せないのに
ヨシエちゃんとユウキちゃんのことだけは
今でもフルネームで憶えてる

今、何をしていますか?
元気でいますか?
結婚して、子供が出来て
もしかしたら
孫まで居たりしますか?

きっと今すれ違っても
お互いのことは
分からないと思う

そしてこの先
あなた方の人生に
私が絡むことはないと思う

けれど

あなた方二人は
私の中の一番古い
友だちの思い出

それはきっと、この先ずっと
絶対に、絶対に
変わることはない


7/5/2024, 2:39:02 PM


新月の夜の君の願い

どこにいても
誰といても
月下美人の花が咲く
年に一度のその時だけは
天に流れる星の川を
しかと両の目に焼き付けて
自分と共に生きたことを
ほんの少しでも思い出して、と

今年も咲いた月下美人
白く儚い花は変わらず
あの頃の君によく似ている
見上げた空に星は少なく
街の灯りが邪魔をする

私はそっと目を閉じる
瞼の裏に広がる星空と
一夜で終わる花のように
儚く散った君の笑顔を

7/4/2024, 2:12:14 PM


『志望校に受かりますように』
『ダイエットが成功しますように』
『お母さんの病気が治りますように』
『魔法使いになりたい』
『宝くじが当たりますように』
『あの子と付き合えますように』
『明後日の運動会、雨になりますように』
『ママが優しくなりますように』
『健康でいられますように』
『お父さんが無事帰ってきますように』
『世界が平和でありますように』
『異世界に行けますように』
『子供ができますように』
『お店が繁盛しますように』
『冒険者になりたい』
『ケーキ屋さんになりたいです』
『恋人が欲しい』
『ライブのチケットが当たりますように』
『働きたくない』
『遠足の日が晴れますように』

……うーむ。こう、頼み事ばかりされてもな。
あ、これはあいつに振るか。これとこれと、これもだな。ついでにこれも。
コッチは、来月の会合で確認するか
天気はなぁ、難しいなぁ、少しだけなら何とかできるが、うーん。
異世界…、また異世界か。これは調べないとわからんな、後回しだ。
ケーキか、アレは美味しかったな。うん、美味いケーキを作れるよう頑張れ。
子供か、これは…あの方の領分だな、という事でこっちに分けてと…

『かみさま、ゴメンなさい』

うん?何だ?

『みのりは悪い子でした。これからは、お片付けきちんとします。ピーマンもきらいだけどたべます。かけっこもがんばる。チョコは1日3つまでにします。だから、お願いします。ママをかえしてください』

ママを返す?
あぁ、入院が少し延びていただけのようだな。
大丈夫、安心しなさい、明後日には帰って来るよ。
それまで父親とふたりで頑張りなさい。
小さいお姉ちゃん。

ふぅ、これで大方片付いたかな。
おっと、忘れるところだった、異世界だったか。
[異世界とは]
検索っと…、ナニナニ……、なるほど面白そ…おっほん。
うーん、これはもう少し調べてみる必要があるな。
それには参考資料が必要だな、うん。
これと、これと、これ。あと、こっちも…ぽちっと。
コレは必要経費って事で、あ、これも。
うん、オススメされたら読んでみないと調査にならないな。
ほぉ、これも良さそうだ、うん、このシリーズも…、おっ、アニメもあるのか!
あぁ、時間が足りないな、困った困った…。


時に、人の想像が神の創造を超えることを
神様だけが知っている


7/4/2024, 2:27:51 AM


『アンタといるのが一番楽だわ』

君がそう言ったのは中二の夏
僕の部屋のベッドに寝転んで
漫画を読みながら
なんの前触れもなく
突然そんなことを言った
どういう意味かと聞いた僕に
君は、ただそう思っただけ、と答えた

僕たちは所謂幼馴染で
母親同士も幼馴染
ハイハイをする前から
僕たちは一緒に育った
何をするにも二人一緒で
隣にいるのが当たり前で
この先も変わらず共にいられるのだと
何故かそう思っていた

そして今、そんな君の隣にいるのは僕じゃない

僕の前を僕の知らない男と手を繋いで歩く
僕の知らない女子がいる
指と指を絡ませて
俗に言う、恋人繋ぎと言うやつで
お互いの距離を縮めている

昔は短かった君の髪は
背中まで伸びて
緩くふわふわと風に靡き
時折見える首筋に
ドキリと僕の鼓動が跳ね上がる

薄く色づいた唇が動く様を
盗み見るように視界に収め
僕の知る君の声で
僕の名前を再生する

僕より先に大人になった君は
僕の知らない顔をして
ワントーン高い声で笑う

そんな君を僕は知らない
僕の知っている君は
今そこにいる君じゃない

家の門を潜り玄関を開ける
耳に微かに届く君の声と
低く響く男の声を
ドアを閉じることで
僕の世界から締め出す

部屋の窓から見えた
重なるふたりの影に
心臓が悲鳴をあげると同時に
部屋の厚いカーテンを閉める

『アンタといるのが一番楽だわ』

そう言った君と
あそこにいる君は
同じなのだろうか

二人並んで同じ道を歩いていたと思ったのに
いつの間にか君は先に行き
僕は今、独りきりで歩いてる

僕の中の君への想いに
もっと早く気付いていたら
17歳の君と僕は
同じ道を歩いていただろうか

この道の先に君がいて
僕が君に追いつけたなら
君は僕と手を繋ぎ
また一緒にこの道を
並んで歩いてくれるだろうか?

7/2/2024, 3:39:35 PM


「Aパックでいいか?」
「Bは?」
「品切れだ。明日届く」
「うーん、Aかぁ…うーん」
「諦めろ。ほらっ」

冷蔵庫の前に立つ美丈夫が放り投げたそれは、綺麗な放物線を描いてソファに座ったオレの元に届けられた。
しぶしぶ付属のストローを差し込んで一口吸い上げる。
口の中に広がるハーブのような香りと酸味のある味。
不味いわけでは無いのだが、この味がどうにも苦手だ。
眉間にぎゅっと皺をよ寄せて一気に飲み干し、すかさずチョコレートを口に放り込んむ。
口の中が甘苦いまろやかな味に支配されていくのを感じながら、テレビの電源を入れた。

『...日差しが強くなっています。熱中症や日焼け対策を忘れずに』

天気予報のキャスターの背後には、太陽から身を守るようにして日傘をさす女性のイラストが合成されている。
傘の形は昔から変わらないな、なんて考えているうちに番組は終了を迎え、CMが流れはじめた。
眩しい太陽の光の下を、汗を流しながら自転車を漕ぐ少女。
自転車を止めて冷えているだろう、ペットボトルの飲み物をゴクゴクと飲む。
背景には青い海。太陽の光を反射してキラキラと輝いている。

「日差し…、日差しかぁ。1度でいいから浴びてみたいな」
「はぁ?」
「だって、気持ちいいって言うし。目を覚ましたら、こう、体伸ばしてさ、カーテンをバッと開けて…」

朝日を全身に浴びるって言うのはどんな気分なんだろうか。

「……気持ちイイどころか、滅茶苦茶痛ぇよ。熱いしな」
「へっ?」
「昔1度ヘマして、浴びたんだよ、朝日。右腕と背中と。そんな長い時間じゃなかったのにだいぶ焼かれて、元に戻るのにひと月近くかかった。まぁ、浴びてみたいつーなら止めはしねぇケドな」
「う……」

少し想像して眉間に皺が寄ってしまう。

「最悪なのが、寝てても起きててもずっと痛ぇんだ。俺達には人間みたいに痛み止めが効かないからな。それこそ24時間ずっと、針を刺してぐりぐり動かされている感じでさ。下っ端の奴らなら浴び続ければ消滅できるらしいけど、俺たちは無理だしな」
「………」

サラリと痛々しいことを話さないで欲しい 、眉間の皺が深くなるじゃないか。

「まぁ、浴びる浴びないはお前の自由だ。で、今日はどうする?」
「あっと、水族館に行きたい。先週から夜の営業始めたらしいんだ」
「OK、じゃぁ、準備するか」
「うん」

男二人で夜の水族館っていうのも微妙だけれど、行きたいところには行く主義なので。
それに一人で行くよりも、二人の方がきっと楽しい。


「あれなら、好きなだけ浴びれるぞ」
「あれ?」

オレの問いに彼は無言で空を指さす。その先にあったのは明るく輝く月。

「直接、日の光は浴びられないが、月に反射した日の光は浴びれるだろ?同じ日の光だ」

確かにそうだ。強さは違うがどちらも"日差し"であることに変わりない。

「そうだね!」

両手を伸ばして"日の光"を全身に浴びる。

「……ねぇ、これ、いつもと一緒じゃない?」
「まぁ、そうだろうな」

くくくっと肩を震わせて笑う彼の背中に、へなちょこパンチをお見舞いする。

出会って今日で200年と少し。彼のことでオレが知らないことは、まだまだ沢山ある。
この先の100年、200年でもっともっと彼のことを知れるだろう。

そしてそれが、終わりの見えない永い生の中で、きっと大切な宝物になる。

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