『アンタといるのが一番楽だわ』
君がそう言ったのは中二の夏
僕の部屋のベッドに寝転んで
漫画を読みながら
なんの前触れもなく
突然そんなことを言った
どういう意味かと聞いた僕に
君は、ただそう思っただけ、と答えた
僕たちは所謂幼馴染で
母親同士も幼馴染
ハイハイをする前から
僕たちは一緒に育った
何をするにも二人一緒で
隣にいるのが当たり前で
この先も変わらず共にいられるのだと
何故かそう思っていた
そして今、そんな君の隣にいるのは僕じゃない
僕の前を僕の知らない男と手を繋いで歩く
僕の知らない女子がいる
指と指を絡ませて
俗に言う、恋人繋ぎと言うやつで
お互いの距離を縮めている
昔は短かった君の髪は
背中まで伸びて
緩くふわふわと風に靡き
時折見える首筋に
ドキリと僕の鼓動が跳ね上がる
薄く色づいた唇が動く様を
盗み見るように視界に収め
僕の知る君の声で
僕の名前を再生する
僕より先に大人になった君は
僕の知らない顔をして
ワントーン高い声で笑う
そんな君を僕は知らない
僕の知っている君は
今そこにいる君じゃない
家の門を潜り玄関を開ける
耳に微かに届く君の声と
低く響く男の声を
ドアを閉じることで
僕の世界から締め出す
部屋の窓から見えた
重なるふたりの影に
心臓が悲鳴をあげると同時に
部屋の厚いカーテンを閉める
『アンタといるのが一番楽だわ』
そう言った君と
あそこにいる君は
同じなのだろうか
二人並んで同じ道を歩いていたと思ったのに
いつの間にか君は先に行き
僕は今、独りきりで歩いてる
僕の中の君への想いに
もっと早く気付いていたら
17歳の君と僕は
同じ道を歩いていただろうか
この道の先に君がいて
僕が君に追いつけたなら
君は僕と手を繋ぎ
また一緒にこの道を
並んで歩いてくれるだろうか?
7/4/2024, 2:27:51 AM