__ねぇ、だいすきだよ。
つまらないセリフ。
在り来りなセリフ。
こんなもので僕が満足、君が満足するとは思えない。
…だけど、だけどね。
君への想いを表す言葉が、他に思いつかない。
よく、能天気だとか…何も考えていないだとか言われがちだけれど
あいつは声色や見た目に反して冷めている方だと思う。
覚めている、と言うよりかは現実的。
無謀な夢を見ることは嫌いだろうし、
自分にメリットがないことはやりたがらない。
感情の変化だって普段は激しくない。
…だけど、今日の彼はそうでも無いみたいだ。
預けられた合鍵を使って家に入ると張り詰めた空気。
リビングはゴミだの服だの飲み物だのでぐしゃぐしゃ。
その中にぽつんと座り込むあいつの肩をゆっくりと抱いた。
「…なにしてんのよ、これお気に入りだったじゃん。」
「こわせっていわれたの、かみさまがいったの。」
あぁ、また、神様かよ。
夢見ないくせに、現実大好きなくせに。
俺が知らないお前だけの神様に頼ってんじゃねぇよ。
かみさまが、と呟き続けるあいつの肩に爪を立てる。
窓の外は嵐だけど…俺の心の方が嵐だっつーの。
この顔だけは見られたくなかった。
ふたつの水晶はまともに機能なんてしてくれなくて
大好きな片割れの顔をはっきりと映さない。
足でもいたい、?
けがした?
不安そうにこちらを見つめているであろう片割れ。
ごめんね、そんな顔させたくて誘ったんじゃないの。
そんな顔させたくて、浴衣を着てきたわけじゃないの。
少しでも君にかっこいい、って思って欲しかった。
それだけなの。
抱えてしまった歪な思いは、こんな時でも自分を邪魔して。
こんな時でも自分から正常を奪っていく。
ごめん、ごめんね。
明日からはまたさ、ただの片割れに戻るから。
今だけは、この花が散るまでは
すきでいてほしいの
ずっとできると思っていた。
自分はまだ努力していないだけで、本気を出したら周りよりできる。
そう思っていた。
今思えば、勘違いも甚だしいが。
夢を見た。
なんでも出来る片割れの周りに人が沢山いた。
自分の周りは?
見渡しても、何も無かった。
…あぁ、これが、差か。
『現実は残酷だろ?』
呟かれた毒は耳に張り付いて、落ちることは無かった。