11/30/2022, 11:20:34 AM
『これをいつも楽しみにしてるんだ!』
彼が泣きながら喚いた。
子供じゃないんだからと私は呆れるが、言葉にはしない。その後どうなるかすでに経験しているからだ。
『そんなに泣かないでよ』
私は優しく声をかける。(仕方なくである)
『30年いつも楽しみにしてるんだぞ!』
彼は涙ながらに感情的になっている。普段はこんなじゃないのだけれど、余程これにはこだわりがあるようだ。
『はい』私はそれを山の上にさした。
それは、国旗がついた爪楊枝。今日はイタリアの国旗だ。
『ありがとう』そう言うとニコニコしながら食べ始める。
そんなに嬉しいのだろうか。私は疑問に思いながら、ため息をついた。
私の鞄の中にフランスと日本の国旗が顔を出している。
11/15/2022, 1:57:39 PM
とことこと歩いてきた。
白と黒のかたまり。
小さなそれは私の足に擦り寄ってきた。
柔らかく温かいそれはとてもとても愛らしかった。
私は白と黒のかたまりに『大福』と名づけた。
みゃぁみゃぁと声をあげて足を登ってくるような活発な子だった。
「大福、大福」いつもならすぐにやってくるのだが、今日はまだ見ていない。
「大福、大福」こんなとこにいたのか。
丸まって小さくなっている。
「大福」名前を呼んでも動かない。
手を伸ばす。それは硬く冷たかった。
「大福」
それもそのはず、それはまさしく大福だった。
私は視力が悪く触れるまで眼鏡をかけ忘れている事に気づいていなかった。
眼鏡をとりに寝室に戻る。
みゃぁ。布団の中から顔を出し眠そうにあくびをしながらゆっくりと出てきた。
『大福』
私の眉間に少しだけシワがよった気もしたが、よかったよかった。ほっと一息ついた。