君に会いたかった。
一度でもいいから。
顔を見てみたかった。
貴方に触れてみたかった。
いつか、また会いましょう。
妻が亡くなった。
遺品の中には、俺には見せてくれなかった
一冊の日記があった。
鍵付きの日記は、鍵がどこにあるかわからない。
それから数年、持ったまま放置をしていた。
ある日、引き出しを開けてみると、
見覚えのない鍵があった。
もしかして、と思い日記にはめてみると、
開いた。
中には、妻と俺の毎日の話が書かれていた。
夕食の話や仕事から帰ってきた時間、
どちらが家事をしたなどやくだらない日常会話まで。
最後のページには弱々しい力で文字が綴られていた。
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癌。
お医者さんにそう伝えられた。
それから数年。
力に衰えが見えてきて。
もうあの人とは、生きられないのね。
貴方がもし、これを見ているのなら。
私は何かを察して、貴方の引き出しに
鍵を入れたのね。
これを見ているなら、どうか、どうか、
──────私の代わりに、最後まで生きて。
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気づいたら手紙は涙でしわしわになってしまった。
ああ、なんて君は最後まで
俺を愛してくれる人なんだ。
静かな部屋は、時計の音だけが響いた。
木枯らしの予報がテレビに入る。
スーツを身に纏って鞄を持つ。
車のキーと家の鍵、財布にスマホと
いつも通りの荷物を入れる。
いつも通りの一日が、
木枯らしの予報とともにやってくる。
蝶は美しい。
綺麗な柄で人間を騙す毒の蝶よりかは。
蝶は美しい。
言葉巧みに人間を騙す化け猫よりかは。
蝶は美しい。
少なくとも、人間よりかは。
さぁ皆様こんにちは!
私が誰かって?
…そうですね…。
死神支配人とお呼びください。
皆様は、この世界の死について
何を思い浮かべますか?
時に悲しく、時に残酷で、
時に楽しく、時に希望である。
そんな死に、貴方は何を思いますか?
私?私はそうですね…
この世界の醜さを表すものだと思います。
死を幸福と思う者もいれば、
死に向き合ったことのない者もいます。
でも、それが素晴らしいのです。
それが"人間"であるから。
それこそ、"この世界は醜い"という事に
なるでしょう。
人間の死は、この世界で一番
素晴らしいですからね。