アクヤ

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妻が亡くなった。
遺品の中には、俺には見せてくれなかった
一冊の日記があった。
鍵付きの日記は、鍵がどこにあるかわからない。
それから数年、持ったまま放置をしていた。
ある日、引き出しを開けてみると、
見覚えのない鍵があった。
もしかして、と思い日記にはめてみると、
開いた。
中には、妻と俺の毎日の話が書かれていた。
夕食の話や仕事から帰ってきた時間、
どちらが家事をしたなどやくだらない日常会話まで。
最後のページには弱々しい力で文字が綴られていた。





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癌。
お医者さんにそう伝えられた。
それから数年。
力に衰えが見えてきて。
もうあの人とは、生きられないのね。
貴方がもし、これを見ているのなら。
私は何かを察して、貴方の引き出しに
鍵を入れたのね。
これを見ているなら、どうか、どうか、
──────私の代わりに、最後まで生きて。
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気づいたら手紙は涙でしわしわになってしまった。
ああ、なんて君は最後まで
俺を愛してくれる人なんだ。
静かな部屋は、時計の音だけが響いた。

1/18/2023, 11:30:10 AM