どれだけ注意して扉を開けても、防犯性に長けたこの扉は、どうしたって大きな音を立てる。
ガチャッ
家族がぐっすり眠っていることを願いながら、扉の隙間に身を滑り込ませる。
外に出ると、空気が変わった。静かで、凍えそうに寒くて、吐息が温かくて、やっと息ができた。
目を閉じて、また開ける。
雨が降っていた。靴も履いていないのに。
空がまだ薄暗い。私はとうとう眠れなかった。
おもむろに、胸の前で手を組む。
神様。‥神様。どうか、見ていてください。どうか、今だけは、手を差し伸べてください。こんなことを祈らなくても、きっとあなたは私の傍にいる、そう、皆は言うんです。だけど、私はこうして言い聞かせなければ、とても怖くて立っていられない。
神様。とうとう今夜は眠れなかった。もう涙なんて出ない。だけど、だけど神様、雨が降っているんです。しとしとと、私の頬を濡らすんです。じき、私の涙に取って代わるでしょう。
だから、その時、その時だけは、どうか。
ふと顔を上げると、目が合った。そいつは何の気力もない顔で呟いた。
タスケテ。
自分では発したつもりもないのに、鏡から聞こえたその声は、確かに鼓膜を震わせた。瞬時にはその言葉を認識できず、ただ動いたその唇を凝視してしまう。
‥え。
「なんで」
認識はしたものの、どうしても理解できなかった。
なんで、そんな顔なのに、そんなこと言えるんだよ。そんな気力が残ってるはず、ないのに。なんで。
わからない。
見つめ合ったまま、睨みつける。
最低。お前は、最低だ。
鏡の中の自分が、微かに笑った。困ったように、眉尻を下げる。
そんな顔をするなよ。腹が立つなんてもんじゃない。情けなくなるんだ。だから、そんな顔するなよ、
「絶対、見捨てないから、もう」
自分の呟きがまた鼓膜を震わせる。真っ当に、自分の脳に認識されることがわかっているから、だから驚かない。もう何も意外じゃない。
決めたんだ。
睨みつけて、最低だと踏みつけて、それでもお前だけは見捨ててやらない。
覚悟しとけ。絶対、死んでやるか。
だから死ぬなよ。お前は、そこで見てろ。
馬鹿野郎。