やまめ

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ふと顔を上げると、目が合った。そいつは何の気力もない顔で呟いた。
タスケテ。
自分では発したつもりもないのに、鏡から聞こえたその声は、確かに鼓膜を震わせた。瞬時にはその言葉を認識できず、ただ動いたその唇を凝視してしまう。
‥え。
「なんで」
認識はしたものの、どうしても理解できなかった。
なんで、そんな顔なのに、そんなこと言えるんだよ。そんな気力が残ってるはず、ないのに。なんで。
わからない。
見つめ合ったまま、睨みつける。
最低。お前は、最低だ。
鏡の中の自分が、微かに笑った。困ったように、眉尻を下げる。
そんな顔をするなよ。腹が立つなんてもんじゃない。情けなくなるんだ。だから、そんな顔するなよ、
「絶対、見捨てないから、もう」
自分の呟きがまた鼓膜を震わせる。真っ当に、自分の脳に認識されることがわかっているから、だから驚かない。もう何も意外じゃない。
決めたんだ。
睨みつけて、最低だと踏みつけて、それでもお前だけは見捨ててやらない。
覚悟しとけ。絶対、死んでやるか。
だから死ぬなよ。お前は、そこで見てろ。
馬鹿野郎。

8/19/2023, 7:38:06 AM