「好き」
一言だけ呟いた。静寂が響いて冷や汗がたらり。
ごめんなさい。関係を崩すような事して。今の距離感が心地いいことも、友達だから成り立ってたことも、全部全部…全部分かってた。
友達って言う肩書きじゃしちゃいけないような事もした。ふたりの秘密にしようって。共犯だからって。
あの時誓ったんだよ。絶対今の気持ち忘れるんだって。こんな気持ち絶対蓋するんだって、そう思ってた。
…でもどうしても伝えたかった。ごめんなさい。
泣く事も否定する事も怒る事もしないで、困った顔して気遣うように笑わないで。
最低でごめん。この気持ちに蓋出来なくてごめん。
……「好き」になって、ごめんなさい。
『恋物語』
ハッとして目が覚める。体内時計が狂ってしまったのかまだ外は闇に呑まれたままだ。
着信音がしてスマホの画面をつける。暗闇に慣れた目には刺激が強すぎる程眩しい。画面には“非通知”と書かれた文字が映し出されていた。男は不審に思うも、寝起きで回らない頭は自然と電話に出ていた。
「もしもし」
男は掠れた声で電話越しの誰かに話しかけた。音をつたって聞こえてきたのは、女性の声。
『もしもし、助けて頂きたいんです』
「どちら様ですか」
『…助けて頂きたいんです』
「……かける相手間違えてませんか」
『違います!私はあなたに、』
男は女性の言葉を遮り通話を終了した。ツー…と無機質な音が聞こえたのを確認し、スマホの画面を切る。再び男が布団に潜って眠ろうとしたその時、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「…………チッ」
男は思わず無意識のうちに舌打ちをした。仕方なくインターホンの画面を覗くと、そこに居るのは見知らぬ女性。しかし何故か女性の姿はぼろぼろで、白い服には赤い何かが飛び散っていた。
『…助けて頂きたいんです』
先程聞いた声と一致している。気味が悪くなりインターホンの画面を切った。恐怖から一直線に布団へ戻り、包まる。ベッドの横に常時置いてある催眠薬を無理やり飲んで、ぎゅっと目を瞑り夢の世界へ強制的に旅立った。
ハッとして目が覚める。体内時計が狂ってしまったのかまだ外は闇に呑まれたままだ。
また変な夢を見てしまった。でもやめられない。男は“睡眠薬”をもう1粒だけ飲み込んだ。
『真夜中』