お母さん、私はあなたに謝らなければならないことがある。
祖母が亡くなっても、大して悲しくはなかったこと。
最後の別れになるというのに忙しいからと言い訳をして
葬式にも参列しなかったこと。
電話口で、あなたに葬式に参列できないことへの謝罪を涙ながらに語りながらも、本当はちっとも後悔していなかったこと。
あの時、涙がこぼれて申し訳ないと思ったのは祖母が亡くなったと言う知らせにショックを受けたからではない。
他でもないあなたのそばにいてやれない罪悪感からだ。
あなたは強がるでしょう。複雑ながらも最愛の母を失った悲しみを1人で抱え込むのでしょう。
気丈に振る舞いながら、日常を過ごしてふと心に影がさしても誰にも悟らせようとしないのがあなただから。
私は、母であるあなたのそばで寄り添うことさえ放棄してしまったことを謝りたかったのです。
薄情な娘でごめんねと。私は、祖母とあなたが形容し難い関係性であったのが幼いながらも悟っていたから。
そして、私たち孫に対しては明るく優しかった祖母は
老いてみるみるうちに病に侵され私たちを認識できなくなった時点で、もう私の知っていた祖母はすでに死んでしまったのです。
そんな私の胸の内は、あなたに生涯打ち明けることはないでしょう。
「言葉にならないもの」
毎朝、カーテンを開けるのが怖い
だって、今日もあの男がカーテンの隙間から覗いてるんだもの
あたしのアパートの向かいに住んでる同じ階の不気味な男
朝、目覚めてカーテンを開けて朝日を浴びるのが
日課だったけど開けるといつも、わずかなカーテンの隙間から顔半分を出して血走った目で見てくるのよ
それが、嫌で自宅で過ごす時はいつもカーテンを閉め切って生活してた
気づいたら、男は朝だけでなく昼も夜も関係なく
コチラを見ているから
毎週のゴミ出しの日を見計らって、しつこく話しかけてくるのをそっけなくしたからこんなに粘着されるのかしら
本当に参ったわ
カーテンをしっかりと、閉めてから退散するんだったわ
まあ、あの時は気が動転してたからカーテンを閉め切る余裕も考えもなかったから仕方ないわよね
体重の重さで、ロープが千切れなきゃいいけど
はやく、腐敗して骨にならないかしら
とにかくあの男の血走った目が、気に入らなかったのよね
骨になれば眼球なんて落っこちるんだから
それまでの辛抱ね
「カーテン」
「月に願いを」
願いはあるかと、いざ問われれば私はためらい口を閉ざしてしまう。
自分なんかが、願っていいのか。願った先に、満たされて幸福を感受する私がいていいのだろうかと、そんな捻くれたことを考えてしまう。
あの、優しく仄かに私たちを照らしてくれる美しい月に、手を伸ばし願いを届けても許されるならば、
どうか、お願い私が私でいてもいいのだと赦しを乞いたい。