あの子より、私のほうが幸せ。
私のほうが頭が良いし、沢山の洋服やブランドバッグを持ってる。お小遣いだってママにお願いすればいつでももらえちゃう。
なのになんで、こんなに私のほうが沢山持ってるのにあの子に勝てないんだろう。
あの子のお家は貧乏で、毎日小さいお弁当持参してて、毛皮のコートなんか持っちゃいない。でもいつも楽しそう。私よりも周りに女のコが集まってくる。なにかくだらない話題で楽しそうにみんなでケタケタ笑ってる。
バカみたい。
私のほうがすごいのに。
私のほうが恵まれてるのに。
そんなふうに無理して笑う必要ないのに。
なんだか面白くなくて、いつもあの子の周りにいた女のコたちとってみた。新商品のコスメあげるよ、って言ったらみんなあの子を置いて私のほうに来た。友情ってちょろいもんね。
あの子はめでたく独り。さてどうしてるかなって思って見てたら黙々と読書をしてた。友達もいなくなっちゃったから、することないんだな。いい気味だなって思ったの。
なのにあの子はちっとも寂しそうじゃない。ずっと動かず本に夢中になってる。とうとう同じクラスの男の子に「何読んでるの」って話しかけられてた。あっという間に2人は仲良くなって、何か楽しげに談笑しだした。
嘘でしょ。
どうしても独りじゃいられないわけ?いつもそうやって、誰かを巻き込むのが得意なんだね。
バカみたい。
ううん。
バカなのはあの子じゃない。
たぶん、バカなのは私。
なんなの、アイツ。
好きじゃないのに目に入る。だって私の前でやたら転んだりプリントぶちまけたり物落としたりしてんだもん。そんなに注目されたいわけ?
「あ……ごめん、ありがとう」
別に無視しても良かったけど、あまりにも派手なコケ方するから見て見ぬふりできなかっただけ。どんくさいったらありゃしない。
よくあれでいつも試験の順位上位取れてるよね。頭の良さと反射神経は比例しないってことか。
「助かったよ、ありがとね」
まき散らしたプリントを抱えてアイツはどこかへ歩いてゆく。あんな量1人で抱えてるから落とすんだ。もうひとりの学級委員に頼めばいいのに。……ていうか、あたしが持ってあげても良かったけど。頼まれたらそうしてたけど、いっか。もう行っちゃったし。せいぜいもう転ばないでくださいよって感じ。
はーあ。アイツのせいで昼休みの時間減っちゃったよ。アイツはご飯、食べたのかな。なんかまたパシられてそのまま食いそびれてそう。これから学食行くけど、パンでも買ってってあげようかな。もちろん金とるけど。
……気が向いたら、買ってあげよ。
今日は全国的に晴天に恵まれるでしょう。
『あ、もしもし?今日さ、予定無くなっちゃったから会えることになったんだ。どうする?会う?オッケー、そしたら2時過ぎに駅前でよろしく。また連絡すんね』
ですが、場所に寄っては雲の多い気候となりそうです。
『ごめーん、なんかバイトの先輩が熱出たっぽくてヘルプで呼ばれちゃった。今から来れる?って店長から電話きて断れなくて行くことになった。だから行ってくんね。ほんとごめん。もし、早く上がれそうなら電話するから』
また、沿岸部のみところにより雨でしょう。
『やば。なんかあたしの乗ってた電車が人身事故起こしたっぽい。げー、マジでこれじゃ遅刻だよ。そうなると多分最後まで出るようかも……今日会えないかも』
ですが雨は一時的で次第に天気は回復するでしょう。
『今店長から連絡来たんだけどさ、今日はそんな混んでないから残りの人でまわせるって。だから来なくていーよーだって。なんなん、最初からそう言えし。ま、いっか。おかげで行かなくて良くなったんだし。てことでめでたくあたしフリーになりました。今どこにいんの?あ、そうなの、ならあたしがそっち向かうよ。どっか適当に店入って時間潰してて。なるべくいそぐね!』
気づいたら目で追ってる。そんな存在。
向こうは僕のこと名前すら知らないかもだけど。
僕は、君が優しくしてくれたあの日からずっとあの笑顔が忘れられないんだ。
行動しなきゃ距離は縮まらない。僕のこと認識すらしてもらえない。
だからいい加減こんなふうにコソコソしてないで話しかけなきゃいけないんだけど、勇気が、なあ。
でもそんなことしてたら君は誰かにとられちゃう。それも嫌だ。だから意を決して話しかけるよ。めちゃくちゃ緊張する。どんな顔向けられるんだろう。不安ばっかり頭によぎる。
でも、それでも君のこともっと知りたいから。僕の一匙にも満たないような勇気を振り絞って。今から君の名前を呼ぶから。だからどうか、受け入れて。
「ねぇ、あのさ――」
プレゼントをくれるし、おはようのメールも送ってくれるから自然と期待しちゃったの。ある日勇気を出してこっちからメールしてみた。“今度いつ会える?”って。そしたら、“君が会いたいと思った時”なんて返ってきたから飛び上がるほど嬉しくなったんだ。知らないうちに好きになってた。もうこの気持ちは止められない。あなたのこともっといっぱい知りたいなって心の底から思ったよ。
でも、待てど暮らせどあなたは私の前に姿を見せてくれない。あの日と同じように会いたい気持ちをメールしても、適当な返事が来る時もあれば既読スルーの日もあった。おかしいな、なんでかな。会いたいのって、もしかして私だけ?変な違和感を覚え始めつつ駅までの道を歩いてる。今日はバイトの日だから、向かうためにこれから電車に乗る。
いつもの、3番ホームで電車を待ってる時。向かい側のホームにあなたを見つけた。すごい偶然。私のことに気づくかな。ちょっと期待をしながら数十メートル先のあなたを見つめる。届け、私の思い。
でも、次の瞬間あれって思った。後ろから知らない女の子がやってきて、あなたの右腕に抱きついた。あなたは笑いかけながらその子の頭を撫でる。誰なんだろう。すごく仲が良さそうに見える。妹とかいうオチじゃないことくらいは分かる。妹でも姉でも従姉妹でもないのに腕を組める存在。答えは1つしかなかった。
「……なぁんだ」
私の独り言を呑み込むように電車が滑り込んでくる。あなたとその子は見えなくなった。それで良かったと思った。これ以上見ていたくなかった。
「バカみたい」
小さく呟く私の前で電車の扉が開く。暖房と人ごみのもわっとした嫌な熱気を感じた。どこまでも生温く、肌当たりは良くない。
今まであなたが私に向けた優しさも多分、こんな感じのものだったんだな。
尚更思った。バカみたい。