『安らかな瞳』
旅立った子は「かまってちゃん」だった
誰かが座るとすぐ膝に乗ってきた
彼を失って、もうあの重みを思い出せない
彼女は彼を失って、すっかり変わってしまった
喜びを爆発させてくるくる回ることもなくなったし、
しっぽも振らなくなった
うるさいほど吠えていたのに、ほとんど声も出さない
私の喪失と彼女の喪失は、同じようで全く違っているのかもしれない
それでも数ヶ月すると彼女は彼女なりの落ち着きを取り戻した
彼女は残りの日々をただ受け入れて、一日一日過ごしている
その静かさが今の私を支えている
『ずっと隣で』
アカウントの乗っ取りにあったことをきっかけに、さまざまな整理が始まった
全く使ってないアプリを見直したり
アドレスとパスワードを変更したり
今まで見て見ぬふりをしていた、面倒なことに手をつけ始めた
ずっと長く通い、結構な買い物をしてきたモールの会員履歴がなくなっていた
確かにここ数年、ネットの買い物が中心になっていた
それでもまた機会があれば行きたい場所だった
ポイント失効は仕方ないとして、会員番号もアドレスもヒットしないことに、なんだかがっかりした
そして新たに発見したのは銀行口座
もしかしたら休眠口座になっているかもしれない
初めて就職した会社のメインバンクとして、ほぼ強制的な口座開設だった
その世界はどんどん変化し、統合を繰り返して、元の姿はなくなっていた
それでも私の中にはその頃の感覚や思いが、その『口座』の中にいまだに残っていたんだと、今回のことを通して改めて気づいた
ペットや、お気に入りのものに思い入れがあって、ずっと支えにしているのは、理解してもらいやすい
でも私は買い物の場所や銀行口座にまで、『自分』を認識していて欲しかったんだ
毎日存在を感じながらずっと一緒にいた愛犬との生活を、失う日を思うだけで涙が流れるのはもう、
私の性質上、どうしようもないのだ
『もっと知りたい』
好奇心がないことがちょっとコンプレックスだった
いろんなことに興味を持って楽しんでいる人
何かに夢中になっている人
雑学に詳しい人
世間で起こるいろんな事件をよく知っている人、覚えている人
私には何もなかった
みんなでワイワイ話していても、ついていけてないこともあった
そんな時は中途半端な笑顔でごまかした
ある時から、自分が興味を持ったものに対しては人から理解されないくらい「知りたがり」の性質があると気づいた
ただ周りの人と興味が一致していないだけだった
そして、いつのまにかネットで情報を得られる世界になっていた
みんなが好きな大谷とか、オリンピックとか、アイドルとか、
そういう話を楽しめたら、日常はもっともっと輝くのだろうか
それでも、
たくさんの人と共鳴できることではなくても、
興味を持てるものが何かしらあることが、
自分が今存在することの意味となっている
『平穏な日常』
ここ数年、基本的にはひきこもり、とても静かに過ごしている
近所に買い物は行くし、知り合いに会えば挨拶し、世間話はする
大げさに言えば、集合意識の影響を極力避けている
子育て中に必須だったグループ
OL時代の友達のグループ
果ては学生時代のグループまで
ライングループを退会した
自分探し時代にできた、さまざまなグループはもうすでに、ないも同然になっていた
思い返せば形だけの挨拶を交わす年賀状を辞めた頃から、この流れは始まっていた
外で人と会う約束もなくなって、着る服もすっかり変わった
化粧も毛染めもしなくなった
60歳最高!と思う
もう周りを気にする必要はない
外の世界から必要とされてなくても
仕事という社会貢献をしていなくても
誰もなんとも思わない
私は私の意思だけで存在できる
ようやくたどり着いた
それは『認められたい』という気持ちを捨て去るための、長い長い旅だった
すでにアイデンティティは崩壊している
私は何者でもないし、だからこそ自由でいられる
『愛と平和』
愛はそれぞれの形で誰でも持っている
平和も、誰の心にも本当はあって当然のもので、人はみな平和な環境で存在するのが当たり前の権利ではないか
人類全てが、願ったり、祈ったりする必要がなくなった時、本当の意味で「平和」な世の中であると言える
愛も平和も豊かさも健康も
全ての人が求める必要もなくそこにある、
そう信頼できる、
それが本来のあるべき姿なんだと思う
それは難しいこと、無理なこと、
そう思い込んでいる、そう思い込まされているみんなの意識が、
今の世界の状態、今の「普通」を創ってしまっている
誰か一人が理想を描いていても、大衆の「人間とはこういうもの」という思い込みにはなかなか抗えない
ただこれだけ情報が自由に得られるようになると、「思い込み」を逸脱した人の存在を頻繁に目にするようになり、「人とはこういうもの」という概念も揺らいでいる
当たり前に愛と平和に満ちた世界
不可能ではない