あぁ、胸が高鳴るとはこの事か。
私は画面にうつる一匹の猫を見ていた。
うちのクロちゃんと同じ黒猫の男の子で、とても穏やかな性格をしているらしい。
私も撫でさせて抱かせてもらったのだが、本当に穏やかで優しい子だった。
「この子いいなぁ…。クロちゃんとも、合うんじゃないかなぁ」
次の休みに保護猫カフェへ行って、この子のことを話してみよう。
私はいつの日が我が家にやってくるであろう猫を夢見ながら眠りにつた。
-翌日-
「えっ」
思わず声が出てしまった。
気になっていたあの黒猫の男の子が、本日の譲渡会で良いご縁にめぐまれたんだとか。
「あー………そっかぁ」
一足遅かった……いや、これはもうあの子の幸せを祝えと言うことなのだろう。
「うん。ずっとの家決まって、おめでとう」
胃が痛い…
ニュースを観ればやれ犯罪だやれ感染症だと、不条理なことばかり。
私は心の乱れを抑えるべく薬を飲むと、さっさと風呂に入り床についた。
「こんな時は寝るに限るよ」
布団の中は落ち着くし、幸せな気持ちになるもの。
現実逃避だが、いまの私の弱った心には、必要なことだと思う。
「はぁー……明日が休みでよかった」
「年取ってから涙もろくてね」
隣で寝ているクロちゃんを撫でつつ、泣けるアニメを見ながら私は鼻をすすった。
昔はここまで涙もろくなかったのになぁ。
そして昔はポジティブだったのになぁ。
若い頃なら泣かないようなことも、最近はすぐ落ち込んで涙が止まらなくなる。
前向きだった性格も、今ではすっかり後ろ向き。
もしかしたら、泣くことが唯一のストレス発散方法なのかもしれないな…
「ほんと、だめだなぁ…」
にゃごー
「ん?大丈夫。…たぶんね」
私はそう言って、優しく頭を撫で続けた。
「え?」
いつもは絶対に布団に入ってなんて来ないクロちゃんが、今日はなぜだか私が横になった布団の隙間に潜り込んできた。
「どうしたの?大丈夫?」
……
怖がりな性格ではあるが、これはただ事ではないぞ。
何に怯えているのか分からないが、私は布団の中で縮こまっている小さな体を優しく撫で続けた。
「大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫」
こうやって寄り添っていれば、きっと大丈夫…
帰宅が遅れたとある日。
私はあわててベランダへと出て洗濯物を取り込む。
外はもう真っ暗で、ちらちらと星が見え隠れしている。
前住んでいた所は空気も悪かったので星もあまり見えなかったが地元に少し近付いた今の住まいは、だいぶ空気も澄んでいて、星もよく見える。
実家のほうに行けば星が溢れるほど見られるのだが…
「下ばっか見てるから、星空みるのも久々かも」
星を眺める心の余裕を失ってから、はたしてどれくらい経ってしまっただろうか…