今日のお題:愛があれば何でもできる?
おい、嘘だろ。
目の前の光景に絶句した。
「あ、三尋木(みぞろぎ)くん」
春秋冬夏(ひととせふゆか)の花のかんばせに、さっと朱色が走っている。
いや、違う。朱というよりこれは……
「安心してください。これでもう、貴方を苦しめる者はどこにもいませんから」
朱殷に染まった彼女の足下には、壊れたマネキンのような肉塊がまろび落ちていた。多分それは元々人間だったものなのだろう。
彼女の言葉からすると、加賀屋千萱(かがやちがや)の可能性がある。こちらを目の敵にして事あるごとに非難し、僕の他者との繋がりを徹底的に邪魔してきた男だ。とはいえ、今の見た目ではそれと判別できないのでいかんともしがたいのだけれども。
「なんで」
僕はそんなことを頼んじゃいない!
と、言葉にしたいのにうまく出ないのがもどかしい。
「ふふ、おかしなことを聞きますね。三尋木くんは」
一歩、また一歩と春秋が近づいてくる度に、僕の足は後ろへと下がっていく。それでも彼女は何も気に留めずまた近づいてくる。
「そんなの、決まってるじゃないですか」
――……愛ですよ、愛。
どこかうっそりとした彼女の微笑みにつられるように、背筋に怖気が走り出した。
今日のお題:後悔
ずっと胸の中に沈んだまま出てこない澱のようなものがある。
いくつもいくつも。
重くて苦しくて、いっそ忘れられれば楽になれるのに、決して消えてくれない。
ある日、ある時、ある場所で、したことと、できなかったこと。
そういう山のような失敗を積み重ねてきてしまった。こういう過ちを犯す際、時によっては相手がいる場合もあった。
人付き合いが下手で、失言も多いし、友達も少ない。伴侶もいない。仕事もうまくこなせない。
もっと自分がいい人間であればよかったのに。
もっと人生を楽にこなせればよかったのに。
自分が自分でなければもう少し幸せに生きられただろうに。
いろいろとぐるぐると考えてしまう。考えずにはいられない。呼吸するように自然と、そういうことが脳裏を絶えずよぎる。
生きているのが嫌にならない日は殆どない。
毎日消えたくてたまらない。でも、消える勇気もない。
だから、とりあえずだらだら地べたを這うように生きている。
好きな作家や漫画家、歌手の新作やシリーズの続きが気になるだとか、楽しみな映画があるだとか、そんな些細なことを一生懸命寄せ集めて命綱にしながら、ぎりぎりの綱渡りを毎日繰り返している。