逆井朔

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今日のお題:愛があれば何でもできる?

 おい、嘘だろ。
 目の前の光景に絶句した。
「あ、三尋木(みぞろぎ)くん」
 春秋冬夏(ひととせふゆか)の花のかんばせに、さっと朱色が走っている。
 いや、違う。朱というよりこれは……
「安心してください。これでもう、貴方を苦しめる者はどこにもいませんから」
 朱殷に染まった彼女の足下には、壊れたマネキンのような肉塊がまろび落ちていた。多分それは元々人間だったものなのだろう。
 彼女の言葉からすると、加賀屋千萱(かがやちがや)の可能性がある。こちらを目の敵にして事あるごとに非難し、僕の他者との繋がりを徹底的に邪魔してきた男だ。とはいえ、今の見た目ではそれと判別できないのでいかんともしがたいのだけれども。
「なんで」
 僕はそんなことを頼んじゃいない!
 と、言葉にしたいのにうまく出ないのがもどかしい。
「ふふ、おかしなことを聞きますね。三尋木くんは」
 一歩、また一歩と春秋が近づいてくる度に、僕の足は後ろへと下がっていく。それでも彼女は何も気に留めずまた近づいてくる。
「そんなの、決まってるじゃないですか」
 ――……愛ですよ、愛。
 どこかうっそりとした彼女の微笑みにつられるように、背筋に怖気が走り出した。

5/16/2024, 2:53:26 PM