お題:これで最後
ああ、そんなに不安そうな顔をしないで。
そっと手を離して、その表情の変化していく様を見守ろうとした。でもできなかった。だって彼女は谷底に瞬く間に消えていったのだから。
「大丈夫、これで最後だから」
貴方の人生はここで潰えるの。だから何も不安になることなんてない。
口にした言葉を、あの子が耳にすることは無い。永遠にだ。
きちんとシナリオは出来上がっている。
二人で登山中、急に滑落しそうになった彼女を必死に支えたけれど、とうとう限界が来てしまった。そんな風に。
第三者が見たらやむを得ないような、そんな理由をこしらえたのだから、このことが明るみになることはない。私の行いの真実は闇に葬られる。
誰からも愛される彼女に密かに心を苦しめられ続けてきた、そんな日々もこれで最後だ。
何もかもから解放されて、初めて私は心から笑えた気がした。
見上げた空を飛ぶ鳥はどこまでも遠くへ去っていった。
:::
10分程度で書きました。
最近、山で起きた遭難事故の検証動画ばかり観ていたから、こんな風に山のことを書いてしまったんだと思います(笑)
お題:やさしい雨音
たたん、たたん、と機を織るような雨音が優しく耳を撫でていく。
読みかけていた本に栞を挟み、窓の外をゆっくりと眺めた。空気を取り入れるため小さく開かれた
曇天の空から絹のような雨が絶え間なく降り注いでいる。
少しだけ雨宿りするつもりで籠もった図書室は思いのほか居心地が良くて
※書きかけ
気力があれば続きを書く
2025.5.25 23:35
お題:秘密の場所
ねぇ、悠ちゃん。約束してね。
絶対にここを誰にも教えないって。
そうしたら、ずっと会えるから。
時折、頭の中をよぎる言葉がある。
子どもの頃、仲良くしていた誰かの、柔らかく甘やかな声。
ねぇ、悠ちゃん。約束してね――……。
相手の声のトーンも、その時の自分の胸の高鳴りもきちんと覚えているのに、その人が誰だったのかがさっぱり思い出せないままなのだ。名前すらも分からない。
夕暮れの街並みを眺めたり、遠くの街にひとり旅に出かけたりした時、つかの間訪れる寂寥と共に、その言葉が去来する。
会いたい気もするし、会わないほうがいいような気もする。
相手の顔すら思い出せないのに、こんな風に感じてしまうのはおかしなことだと自分でも思う。でも、それが胸に湧き出す正直な感情だった。
名も知らない彼女と約束した場所も、今となってはちっとも思い出せない。
私はなんて薄情な人間なのだろう。
小さく自嘲する。
相手の顔も名も、そればかりか約束の場所も思い出せない私は、ただ心のなかでだけ、その子と再会を繰り返している。
もしかして、私が勝手に作り出した幻なのだろうか。そんな風に思ったこともある。でも、そうであるという確証は、その逆の確証と同じくらいに存在しないのだ。
はっきりした答えも見つからないまま、夢か現か分からないあやふやな記憶めいたものに、私は時おり耽るのだった。
-----
久々に執筆。10〜20分くらい。
お題:静寂に包まれた部屋
がらんとした和室の中を見渡した。
もう誰もいない、時の止まった場所。
どこまでも静かで、かつてここで暮らした人たちがいたことが嘘のようにひんやりとしている。住む人がいなくなると家は息吹を止めた死体のように、瞬く間に朽ちていく気がしてならない。
それでも、往時を思わせる家具や調度品が、辛うじて人の残り香のようなものを感じさせてくれた。
仏壇から視線を上に向け、ずらりと並んだ写真をぼんやりと眺めた。
もう今はいない祖父母や曾祖父母、ご先祖様の遺影たち。会ったことのある人も無い人も、オールスターが勢揃いだ。
私が知るのは祖父母や曾祖母だった。曾祖父は私の生まれたばかりの頃に逝去しており、顔を合わせたこともあるのかもしれないけれど、生憎こちらに記憶も思い出も無い。
誰もいなくなったぼろぼろのこの家で、仏壇の前で手を合わせる時が、一番心の奥深くまでもぐって、自分自身と対話できる時間のような気がする。そして、亡くなったご先祖様や身近な家族だった人たちとも。
***
執筆時間:20分間くらい
電車の移動中の暇つぶしにささっと書きました。
お題:神様が舞い降りてきて、こう言った。
「なんでも一つだけ願いを叶えよう」
神々しい光を背後に背負い、シンプルだけれど上質な衣服に身をまとった老人が空からゆっくりと舞い降りてきた。
もしかしてこのは何かの演劇の舞台だっただろうか、と一瞬だけ考えたけど、なんのことはない、ただのうら寂しい公園だった。
当然ながら、舞台の上部とも呼ぶべき宙空に彼を吊り下げるピアノ線などあるはずもない。だから、これは本物の神様だと直感した。
その「神様」が舞い降りて言ったその一言に、私は一も二もなく即答した。
「強くてニューゲームでお願いします」
「……え? なんて?」
神様が耳殻を己の掌で覆うようにして訊き返してくる。やはり神様といえど寄る年波には勝てないのかな、とぼんやりと思う。
「強くてニューゲーム。知りません? 結構有名だと思ったんだけどな。
クソゲーな人生をリセットして、ぬくぬくゆったりイージーモードの人生を送りたいです」
ノンブレスで一気に言い切る。流れ星に出会ったら即言えるようにトレーニングしていた成果がまさかこんなところで発揮されるとは思わなかった。元々早口言葉が得意だったのもあって、あっという間に言い終わってしまった。
「なんじゃそりゃ」
こてんと首を傾げる神様に、こちらも自然と首を傾げていた。こういう願いごとを聞いたことはあまり無いのだろうか。若者や社会人の多くが異世界転生モノにハマって久しい現代において、そんなことってあり得るのだろうか。
「わしゃ❝げぇむ❞なんてもんは殆ど知らんしのぅ」
「いえ、ゲームという言い方は単なる比喩で、人生というゲームを自分に有利な状態で進められるようにしたい、という願望を述べただけです」
「ふむ、なるほど」
「それが駄目なら、不労所得が絶えず貰えるようにしてほしいです」
「いやもう、随分俗物的というか欲まみれというか……」
「神様に遭遇なんて人生に二度とないチャンスなんですから、欲にまみれずなににまみれろと言うんですか?」
「まぁそれも一理あるか……」
神様は私のような平凡娘に簡単に説得されてしまうくらいにはチョロかった。
「で、その強くてなんとか、というのをして、どんな世界にどんな自分で行きたいんじゃ?」
「強くてニューゲームですね。
えっと、まぁよくある異世界転生ものみたいに、チートな能力を持って生まれたいですね」
「……チーター?」
「それ絶対に動物のニュアンスで聞いてますよね?
違います。チートとはこの場合、人生の舵をいい方向にきるために必要で重要な、特別な才能や能力のことです」
「言葉の進化が凄まじすぎてついていけんのぅ。Z世代恐るべし……」
「いやZ世代って言葉知ってるならこのくらいも知っててよくないですか?」
「手厳しいのぅ」
ぶつぶつと小言を呟く神様。
……神様なんだよねこの人?? 実は神様のふりした俳優だったりする?? ワンチャンその可能性もあるかもしれない??
「まぁその、あれじゃな。
分かった。強くたくましいチーターになってサバンナの主になりたいと、つまりそういう訳じゃな」
「いや待って、全然1ミリも掠って無ぇんだわ」
「案ずることなかれ。わしに任せておけば全て安心じゃ」
彼の不安しかない一言とともに、私の身体は、神様の後光と同じくらいまばゆい光に包まれた。
そして私は、サバンナの大地で力強く屈強なチーターになった。まじで神様ふざけるなと心底思ったのは最初だけで、サバンナのカーストの中ではかなりの上位に食い込ませてもらえたことで、存外悪くない人生(……というかチーター生)を送ることに成功した。飢えることもなく、他者に馬鹿にされることもない。人間の頃よりは気楽に生きられている。
でも、もしもまた神様に会うことができたなら、お礼とともに全力で一発パンチをお見舞いしたい。
「確かに強くてニューゲームだったけど、違う、そうじゃない……!」と。
***
執筆時間…30分くらい
めちゃくちゃどうでもいい感じのゆるゆる小説になりました。たまにこんな感じのお馬鹿なノリも書きたくなります。