寝起きのだらけた姿
こんなところ誰にも見せられないわ!
今日も“みんなに好かれるあたし”になるための準備をしなくちゃ
メイクよし、髪も整った
“あたし”になるための最後の香水を潜ませて、準備は終わり
「今日も一日笑顔ですごしましょ」
鏡にうつる自分へ語りかける。
ニッ、と音が出そうなくらいの笑顔でね
自分を元気にできるのは、ここにうつる“あたし”なんだから
どうしよう
あとは寝るだけなのに、なんだか小腹が空いてしまった。
今日はいつもより早く帰ってきて、その調子で夕飯も早く食べてしまったからか。
時計の短針はもう少しで真上を向く。
こんな時間に何か食べてしまったら…
肌、荒れるよな
朝胃がムカムカしちゃうかも
とにかくあまり体によくないよね
いろんな事を考えるほどに、お腹が空いていくような
ああ、悪循環だ
いやいや、布団に入って目を瞑ってしまおう。
胃から寂しい音が響きそうな事に気付かぬふりをして、目覚ましをセットする。
その時ふと気付いた
明日は祝日。国民の休日。私の休日!
だったら、少しくらいいいんじゃないか?
そんな考えが出た時には、もう私は冷蔵庫へ向かっていた。
卵、豆腐、納豆、ベーコン。冷凍庫には、ご飯もうどんもあった
けど、今の気分はこれではない。
シンク下の棚を開けると、私の体が求めているものを発見した。
ポテトチップス。それも、少し硬いやつ。
それを手に持ち座椅子へ座る。
スマホで動画を見ながら、バリッと口の中へ放り込んでいく。
明日の私、ごめんなさい。少しだけ、少しだけだから
ああ、もう無くなってしまいそうだ
キミはきっと長生きだったのだろう
物静かだけれど、どんな状況でも前向きに生きていく姿にずっと救われてきた。
そんなキミと出会えたから、私の生活も豊かになっていったよ。
出会った頃から変化のない私だったからこそ、キミは最後まで私を忘れずにいてくれたのだろうか。
最後に名前を呼んでくれた声が頭から離れなくて、また目の奥が締め付けられるようだ。
「私は先に死んでしまうけど、この木を見たらたまに思い出して欲しい」
そう言って一緒に植えた木も、とうに私の背丈を抜かして立派な樹木となっている。
こんな木が無くたって、忘れられるはずがないのに。
これから続く悠久の時間で、この喪失感が消える時は来るのだろうか。
今はただ、キミのいないこの家で外を眺める事しかできなさそうだ。