「インセプション」とか「パプリカ」、ついこの間観た「ドリーム・シナリオ」とかも、他人の夢に入り込む映画だったな。
夢って何なんだろ。
想像とは違うのだろうか。
人はいろんなことを想像する。
楽しいことや悲しいこと、怖いことやエロいこと。
想像は現実じゃないという理性が働くけど、眠っている状態で見る夢は、現実との境界が分からなくなって、あんな風にリアルな世界感を持つのだろうか。
いや、所々、リアルではないのだが。
ついこの間、私史上最高に怖い夢を見た。
めちゃくちゃ怖くて、目が覚めた部屋の暗闇の中で、安堵感と恐怖感がごちゃ混ぜになって、しばらく身動きが取れなかった。
で、それはどんな夢かというと…覚えてない。
あんなに強烈な夢だった、はずなのに…覚えてない。
俺もう終わりだな、とまで思ったのに。
現実世界でそんな思いをしたら、生涯忘れることはないだろう。
まあ、夢の話なんて、誰かにしたところで、その恐怖は半分も伝わらない。
だって夢だから。
映像も無いし、誰かの体験談である怪談ほどのリアリティもない。
所詮、お前の頭の中の出来事だろ?と言われたらそれまでだ。
だけど、自分の頭の中をいっぱいに満たす感情は、本物だよな。
他人には伝わらなくても、下手をすればメンタルを持っていかれるほど。
思えば、先に挙げた三本の映画も、そこはかとなく怖くて悲しかった…気がする。
最近観た「ドリーム・シナリオ」なんかも、かなり物語に無理はありつつも、夢に翻弄されてしまう恐怖が描かれていた。
まあ、誰の夢に自分が現れてどんな悪事を働こうと、それは夢を見てる人間の問題であって自分は何も悪くないだろ、というのがこの映画の感想だったが。
そうはいかない悲しい結末だったな。
さあ、もうそろそろ眠りにつこう。
そして、夢の中へ。
楽しく悲しく怖くエロく、自由自在な世界の中へ。
潜り込んで好き勝手やろう。
どうせ覚えてないんだから。
どれだけヤバくても、必ず現実に戻ってくるんだから。
そうだろ?
そう…だよね?
親父とお袋、元気かな。
遠く離れて、家庭を持った。
東京の大学に行くと家を出て、そのまま就職し、結婚し、子供を作り、家庭を持った。
時折考える。
俺の家は、どこなんだろう。
毎日帰る家がある。
そこには、俺の家族が待っている。
俺が築き上げた家庭。
愛しの我が家。ホーム・スイート・ホーム。
そして、俺が実家と呼ぶ場所。
そこにも、俺の家族がいる。
今は年老いた父と母が、まだ今の俺よりずっと若い頃に、幼い俺を守り育ててくれた。
あの頃は、あれが俺にとっての唯一の家だった。
その家は今はもう遠く、毎日そばにいるのが当たり前だった両親との距離も遠ざかった。
切り離した訳でも、失った訳でもない。
でも、遠い。
仕方のないことだと分かっていても、時折胸が苦しくなる。
いつか失う日が来るだろう。
そんなに遠い未来ではないのかもしれない。
新しい居場所がここにあるだけ幸せなんだと自分に言い聞かせる。
だけど、失うのは悲しい。
きっと、一番多感だった頃を過ごした場所だから。
誰よりも俺を守ってくれた人達とともに。
元気かな。
元気でいて欲しいな。
いつまでも、とはいかなくても、出来るだけ長く、どんな形にせよ、あなた達にもらった恩を息子として返せるまで、もうちょっと元気でいて欲しいな。
覚えてるか?
俺との約束。
いつか偉くなって、この世界をバラ色にしてみせるって。
そんなん無理に決まってると笑う俺に、やってみなきゃ分かんないだろ!と声を張り上げた、お前。
それなら、その日が来たら、俺はシャンパン持ってお前に会いに行くよと、あの日交わした遠い約束。
いつのまにか、お互いの存在が遠くなって、気が付いたら、お前はもう俺の手の届かないところにいた。
そして、この国を動かせるほどの力を持ったお前は、あの日の約束を果たすべく、各国との交渉を重ねた。
だが、交渉はことごとく決裂し、次第にお前は正気を失ってゆく。
テレビでお前の憔悴しきった顔を見たよ。
助けに行かなきゃ、そう思ったけど、お前の周りには、様々な思惑を持った男達が取り囲む。
どうにも近付けそうにない。
そしてお前は、ある決断をした。
いや…させられた。
世界をバラ色に、真っ赤な炎で焼き尽くす決断。
その首謀者として、その存在を歴史に焼き付ける決断。
世界を破壊しようとした男として、永遠に名を残す決断。
覚えてるか?
俺との約束。
あの約束通り、お前に会いに行くよ。
シャンパンの代わりに、研ぎ澄まされたナイフを持って。
かつて共に過ごした俺を、お前は迎え入れてくれるだろ?
お前の暴走を止められるのは俺だけだから、きっとお前も俺を待っているはず。
今や、お前のたった一人の家族である、兄貴の俺のことを。
これ以上お前を、悪魔の手のひらで踊らせる訳にはいかない。
仕事してたら、キノコを見つけてね。
ああ、俺の仕事、屋外だからさ。
立派なキノコだなーなんて触れようとしたら、弟が慌てて止めるんだよ。
なんだか、危険なキノコらしいね。
毒があんのかな。
あの、でっかい土管のある現場なんだけど、水場が近いのか、よく亀が歩いててさ。
可愛いなーなんて思って触ろうとしたら、やっぱり弟に止められた。
亀って噛むのかね?
確かに、スッポンなんて、噛んだら離さないってイメージだけど。
うん、あの現場、幽霊の噂もあるんだよね。
そう言えば、俺が仕事してる時も、視界の端を白いモヤみたいなのがスゥーっと漂ってたことがある。
あれは幽霊だったのかな。
なんだか丸っこくて、可愛い感じもしたけど。
幽霊ってより、お化けって感じかな。
まあ、あんまり近付きたくはないね。
でも、一番怖いのはさ、あれだよ、あの花。
真っ赤でデッカくて、聞けば、人を食うっていうじゃない。
まさかとは思うけど、弟も食われそうになったことがあるって。
何て言ったかな、あの花の名前。
ちょっと、可愛い感じの名前だったような…。
そーだ、パックンフラワーだ。
え?そろそろ仕事しろって?
へいへい、分かりました。
弟のルイージが戻ってきたら、あの花のことだけはちゃんと聞いてみようぜ。
花に食われるなんて、俺達には死活問題だからさ。
なんでも、さっき言ったあの現場の、土管の中から現れるらしいし。
配管工の俺達には、避けて通れない状況になるかもしれない。
あ、呼ばれた。
はいよ、マリオ、すぐ行きまーす。
新しい地図を手に入れた。
この洞窟、そして洞窟を抜けた先にある、鍛冶職人の町まで描かれた地図だ。
その所々に文字が書かれ、新たな武器の隠し場所や、薬草の生える場所、休憩の出来るポイントまで教えてくれている。
これはイイものを手に入れた。
もうかなりスタミナを消費していて、そろそろどこかで体力を復活させないとと思っていたところだ。
地図を頼りに、薬草の在り処を目指す。
途中、もう見慣れたモンスターが現れた。
逃げる選択肢もあったが、ここは最後の力を振り絞って戦うことにした。
激しい攻防戦。
こちらのダメージは大きく、地面に倒れ込む。
もうダメかと思ったその時、あの呪文を思い出した。
旅の途中で出会った魔導師に教えられた、復活の呪文だ。
「命の灯火が消えそうになった時、この言葉を唱えなさい。あなたをもう一度、この現世に引き戻してくれる呪文です」
「アーデ、マルニス、トモロコ、ダンテ…」
…次の言葉が出てこない。
呪文が長すぎる。
そう言えば魔導師が、
「まあ、ゲームみたいにボタンひとつで呪文が出てくれればいいですけどね。これは覚えにくいですよね」
そんなことを言っていた。
本当に効果があるかも分からないと。
そりゃそうだ。
こんな言葉だけで、人の命がどうこう出来る訳がない。
薬草が、いや、医者が必要だ。
今すぐ、緊急延命手術を。
「…とゆーゲームを開発してみたいと思うんですがね」
「…斬新過ぎるだろ。誰が買うんだよ」
「リアル志向のダンジョン探求者、ですかね。この後、プレイヤーは救急隊に運ばれて、必要な措置を受け、病院のベッドで目を覚まします」
「魔導師の意味は」
「ないですね。斬新でしょ?満身創痍のプレイヤーが、さあ、あのダンジョンに戻る選択を取れるのか。この至れり尽くせりな環境を捨てて、新しい地図を手に冒険を再び始められるのか」
「始めなかったらゲーム終わりじゃん」
「そこからは、病院でのリアルライフシミュレーションゲームとなります。一粒で二度楽しめるってやつですかね」
「いや…俺はいったい何がやりたいんだ?ってなるだろ。我が社を潰す気か」
世界には、今までの歴史上での当たり前が溢れかえっている。
大雑把に言えば、同じことの繰り返しばかり。
そろそろ、新しい地図を手に入れて、今までにない斬新なシステムを取り入れるべきじゃないだろうか。
ゲームにも、人生にも。
いや…もちろん、こんなゲームが売れるとはまったく思わないが。