子供の頃は、地味な存在だった。
のんびり動いて、野菜ばっか食べて。
キャベツが大好物だった。
大人になる手前で、殻に閉じ籠もった。
まったく動かず、息を潜めるような日々。
それでも、いつか羽ばたく日を夢見てた。
その日が来た。
私は殻を破り、外の世界へと羽ばたいた。
外の世界は色とりどりで、素敵な香りに包まれていた。
子供の頃は、虫取りが好きだった。
狙うはカブトムシやクワガタだったけど、たまにヒラヒラ宙を舞うモンシロチョウを追いかけて、虫取り網で捕まえたりもした。
今思えば、カブトムシみたいに飼うつもりもなく、追いかけ回される恐怖を与えただけで、申し訳ないことをしたな。
彼らにだって、この世界に生まれて、子供の頃からの成長の過程があったはずだ。
羽化して外に羽ばたいた時、生きる喜びを感じたりしたのだろうか。
色とりどりの世界で、優雅に宙を舞い、香る花から花へと蜜を求め。
幸せを謳歌しているような、その穏やかな仕草。
まあ、あの頃の自分にそんなこと話しても、右から左への馬耳東風だったろうけど。
変わらない日常なんてない。
誰の日常も、時が流れるにつれて変わっていく。
当たり前だったものが、貴重なものに姿を変える。
例えば、平和とか。
住む場所や、人種、性別や年齢によっても、その日常はまったく異なるものとなり、同列で語ることは出来ない。
「昨夜は、家族で食卓を囲んで、夕飯を食べた後に皆でボードゲームをしたんだ」
そんな日常とは掛け離れた生活を送っている人がたくさんいる。
これは私の日常。
いずれ、私のこんな日々も終わるだろう。
変わらない日常なんてない。
どう変わってしまうのかは分からないが、変わってしまった後の日常が、誰かと繋がりの持てるものであって欲しい。
願わくば、それが家族の誰かであり、一緒に食事が出来るような日常であって欲しい。
当たり前ではない平和が、当たり前だと錯覚出来るような世の中。
当たり前ではない幸せが、当たり前だと錯覚出来るような日常。
本当に今の自分は、恵まれているんだと改めて気付いた。
黄色い私達は、白いあの人達や黒いあの人達と世界を作り上げる。
その世界は青く、時に赤く、緑にも染まる。
そうだ、世界は美しい。
夜空には、黄色い月、白い星達、黒い宇宙。
街のネオンは赤や黄色や青や緑、人間が作り出した色灯りも輝いている。
世界は色に満ちている。
好きな色に包まれて、この人生を送りたい。
心の色まで染め上げて、いつしか白いキャンバスは塗り潰された。
大人になるにつれて、色鮮やかな心模様も薄れてゆくけれど、せめて自分の好きな色だけは、このキャンバスに残しておきたい。
それはきっと、いくつかの色が入り混じり、単色ではなく複雑な色合いとなっているはずだ。
喜びや悲しみや怒りや不安。
それらがすべて色となって、この心に塗り重ねられてゆくから。
心も色に満ちて、そして美しい。
あなたがいるから、俺は頑張れる。
この幸せをずっと守りたい。
明日はあなたの誕生日。
一番あなたが喜んでくれるものは何だろう。
悩んだ挙げ句、友人に相談することにする。
あいつなら、俺の彼女のことも知っている。
友人の家を訪ね、すべてが覆る音を聞く。
そこに、あなたがいたから。
相合傘に憧れたことはない。やったこともない。
いや、傘を忘れてしまった人を入れてあげたことくらいはあったかな。
恋愛感情とか無しで、致し方なく、だ。
何しろ傘の下は狭い。だから動きづらい。
はみ出して濡れる。不快感が増してゆく。
気を使って相手側に傘を傾けて、自分の体の半分はびしょ濡れになったりする。
雨の音で会話もしづらいし、楽しい時間になりそうにない。
傘なんてコンビニで数百円で買えるから、一人一本持てばいい。
そんで速やかにカフェにでも移動して、ゆっくり話をすればいい。
…と、思うのは私だけだろうか。
なんなら、黒板とかに書かれちゃう誰かとの相合傘も、からかわれてるイメージが強くて、あまりイイ印象がない。
自分で書いたら恋愛成就のご利益でもあるのだろうか。
それもまた、神頼みで主体性がないように思える。
…と、ここまで読んでくれたら、確かに相合傘なんて、と同意してくれる人もいるかもしれない。
もしほんの少しでもそう思ってくれる人がいるのなら、自分の説得力と文章力に自信がつく。
実際のところ、相合傘は嫌いじゃない。
じゃあ、次は好きバージョンで。
初恋の相手と、肩が触れるか触れないかの距離で、小さな傘の下、二人きりの空間、そして時間。
濡れるのなんか気にならない。
それより、彼女が今、どんなことを考えてるのかで頭がいっぱい。
雨音が胸のドキドキも隠してくれそうで、静かなBGMのように心地良い。
傘を傾けて、ほんの少しだけでも、君を守りたいという気持ちが伝わればいいな。
このまま時間が止まってくれたら、なんて夢想したりして。
黒板に書かれた相合傘。僕と君の名前が並んでる。
誰かがからかうつもりで書いたのかもしれないけど、これで僕の気持ちが君にバレてしまえばいいのに。
窓から見えるのは快晴の青空。
これじゃ、君と相合傘で帰れない。
神様、お願い。梅雨を終わらせないで。
…とまあ、初恋の相手を出してきた時点で卑怯ですね。
つまりは、シチュエーションでどうとでも変わると。
いずれにせよ、もはや前半のパターンしか起こり得ないおっさんの意見でした。
梅雨なんて早く終わってくれ。