この季節、オレンジと青のグラデーションが美しい夕焼けに心を奪われる。
美しさにハッとすると同時に、何故か、一抹の寂しさを感じたりして。
あれって何なんだろ。幼い頃に見た風景とリンクするのかな。
もう戻れないあの頃に見た景色と重なって、ノスタルジックな感情を呼び覚ますのかもしれない。
それはさておき、昨夜、部屋にカメムシを発見。
ファーストコンタクトした娘は、雄叫びを上げた。
カメムシは刺さないし、毒もないからそんなに怖がることはない(臭いけど)と教えても、あのフォルムがダメだと言う。
猫や犬のフォルムは好きで、虫のフォルムは苦手なのか。
その逆の人もいるだろうな。
美しいと醜いは、十人十色。
まあ、アイドルなんて存在がある以上、偏りがあることも事実だが。
それはさておき、この世界は美しいか否か。
世界は自分の心の中にある、なんて誰かが言ってたっけな。…あ、昨日の自分か。
だとすると、その答えは人それぞれ。まさに十人十色。
夕焼けもカメムシも、それをハッとするほど美しいと思う人もいれば、雄叫びを上げるほど醜いと思う人もいる。
アイドルだって星の数ほどいて、それぞれにファンがいるわけで。
この世界は、どっちとも答えの出せないものばかりだ。
あくまで個人の趣好であって、みんな違ってみんなイイ。
だから、他人を論破することなんて何の意味もないね。
それでも、争い、人を傷付けることだけは、満場一致で「醜い」と言える世の中であってほしい。
それを「美しい」と思える人は、自分の心が「醜い」ということに気付いてほしい。
人はいつだって変われる。
この世界の良し悪しは、自分の気持ち次第。
日々起こる様々なニュースを、
自分がどう捉えるか、そこで評価は変わる。
海の向こうで起きている大惨事より、
飼い猫の体調不良の方が心配だったり、
観光地で有名なスポットを巡るより、
庭先に咲いた名も知らぬ花に心動かされたり。
すべては自分が中心で、
自分次第で世界は天国にも地獄にもなる。
つまり、この世界は自分の心の中にある。
絵葉書でしか見たことのないような景色。
ホントに存在するのかな。CGだったりして。
かの国が戦争を始めるそうだ。
それは、自分の持っている株価に影響するのかな。
重さが違う。現実味が無い。
イイことも悪いことも、
自分にどう関係してくるのかだけを気にしてる。
願わくば、世界をもっと見てみたい。
だけど、自分のキャパを超えるほど、現実の世界は広いんだろうな。
だから、とりま、今見える世界を楽しもう。
YouTubeで世界を知った気になって、
ソファでふんぞり返って良し悪しを決めるのも悪くない。
時は流れ
誰もが大人になる
守られていた時代は終わりを告げ
いつか世界に放り出される
変わらなければ
置き去りにされる
今より強くならなければ
社会に溶け込むスキルを身に付けなければ
なのにどうして
子供の頃より壊れやすい心で
どうして
押し潰されそうな日々を生きているんだろう
どうして
無邪気に笑えたあの頃のように
どうして
大好きな自分のままでいられなくなるんだろう
それが大人になるということ
だというのなら
そんな大人になんかならなくてもいい
時が流れても
自分は何も変わらないよ
守られる立場から守るべき存在のいる世界へ
自分のままで泳ぎ続けてゆくよ
あの頃の自分に
「どうしてそんなにつまんなそうなの?」
なんて聞かれないように
あの頃の自分に
「思うほど大人は悪くないぞ」と
胸を張って伝えられるように
公園のベンチで目を覚ますと、
いつもの新宿の街の喧騒。
始発で帰るつもりが、寝過ごしたらしい。
公園を出て、駅へと向かう。
途中、昨日見たデザイン関連の会社の前を通り過ぎようとして、思わず立ち止まる。
見慣れた、消費者金融の事務所が看板を掲げていた。
駅へと走り、そこが新宿駅であることを確認。
…ロンジュキはどこへ行った?
絶望が押し寄せてくる。
どうしていいか分からずに、とにかく現状を伝えようと、妻にLINEする。
「始発で帰るつもりだったけど、もう家には帰れないかもしれない。」
しばらく待つと、既読が付いて、しばらくすると、返信があった。
「昨夜、変な夢を見たの。あなたが、駅のホームのベンチに座り込んでる夢。それを私はそばで見てた。あなたは私とLINEして、駅を出て、消費者金融の会社に火を付けるの。あなたは泣いてた。私の名前を呼びながら。」
ああ、昨夜こっちの世界にいた自分は、計画をやり遂げた訳だ。いや…それとも、俺は自分が昨夜やったことを忘れているだけなのか?
でも、事務所は燃えていなかった。
妻からの追伸が届く。
「何がどうなってるのかは、私には分からない。でもただ、あなたに帰ってきてほしい。」
人であふれる、新宿駅のいつものホーム。
もちろん改札には壁なんてなかった。
きっと俺は、一夜の夢を見ていたんだな。
妻と同じように。
ずっと夢を見ていたいと思ったけど…いや、違う。
あの夢の続きでは、妻の気持ちは伝わらなかった。
今、何よりも大切なものを手に入れた気がして、
俺は今すぐ、妻のもとに帰りたいと思った。
ずっとこのままじゃいられない。
駅のホーム。
夜の帳が降りて、次の電車は来ない。
ベンチに座って、どうしたもんか考えている。
いつも通る改札が、ただの壁になってた。
駅から出られない。
ホームには誰もおらず、辺りにも人の気配はない。
思えば、この駅に降りたのが自分一人だったことが、そもそもの異常の始まりだった。
だってここは新宿駅。金曜の夜。
ほぼほぼ満員だった電車は、自分を残して走り去った。
そして、次の電車は来ない。
いざとなったら、線路に降りてフェンスを乗り越えようか…と考えていた矢先、スマホが震えた。
画面を見ると、妻からのLINEだった。
「どこにいるの?」
シンジュク、と書いて返信する。
「どこそれ?ロンジュキのこと?」
ロンジュキ…そんなお店があったっけ?
いや、新宿駅だよ、と送ると、
「ちょっと…どこの駅よ、それ。」
…ヤバい。何かヤバいことに巻き込まれてるようだ。
そういえば、街の灯りがまるで見えない。
深夜とはいえ、新宿だぞ。
金曜の夜に、まるで人の気配がしないとはこれいかに。
ふと気付くと、目の前に駅名表示板があった。
そこには、「論寿樹」と書かれている。
ロンジュキ…これか。ここがロンジュキなのか。
新宿じゃなくて、論寿樹。
あれ…もしかして…スマホを取り出し、妻にLINE。
「どうすれば、改札を通り抜けられるんだっけ?」
「チャージ切れなの?ちゃんと壁にタッチした?」
改札だったはずの壁に定期をかざす。
壁が消えて、見慣れた改札が現れた。
いつものように改札を抜けて、駅を出る。
見覚えのある新宿の街並みが広がっている。
でも、車の一台も走っていない。
信号までが消灯している。
「もう終電ってないのかな?」
「こんな時間に電車なんてないよ。」
まだ23時。
この世界は、微妙にルールが異なっているらしい。
目的地のビルの前に立つ。
ここに来るまで、誰一人として見かけなかった。
そして、消費者金融だったはずのその事務所は、
デザイン関連の会社に姿を変えていた。
妻に、明日朝の始発で帰るとLINEする。
どこのホテルもお店も営業してないから、公園で時間を潰すしかないらしい。
それでも、500万の借金を帳消しに出来て、
なおかつ、放火魔にならずに済んだということだ。
いいじゃないか、この世界。
俺は公園のベンチで眠りについた。
明日の朝、目覚めても、
これが夢なんかじゃなくて、
ずっとこのままでありますように。