【お題/鐘の音】♯3
「ごぉぉぉん」
十五夜の鐘の音。
重苦しい音が、周波が、
皮膚という盾を容易に貫通し 体の内部を響かせる。
それは手や足でもなく、肝臓でもなく、
一直線に心臓へと 響く。
辿り着いたそれは 心臓を鷲掴み、
重く、けれど優しく、細かく 揺さぶる。
全ての うずめく黒いものが 振り落とされる感覚。
その瞬間、世の中の争いごとや負の情景が
目の前に ぶわっと広がった。
そして、それらは まばらに広がり、消えていく。
音は、
いつか地球全体を震わせるのだ、まだまだ、
届かせる、響き続ける
そう言うかのように、
力強さを残しながら、遥か遠く闇夜へと
響き渡っていった。
静寂が、訪れる。
【お題/つまらないことでも】♯2
つまらないことこそ、
見方や考え方次第で、見える世界は変わる。
そして、それが自分の価値観となる。
と私は思う。
【お題/目が覚めるまでに】♯1
入院中の話。
ある日 トイレに行きたくて
ナースコールをした。
まだ顔を合わせたことのないナースが来て、
「歩行器で行ってみようか」と言われた。
歩く練習をし始めた頃でまだ困難だったが、
自分の当たり前ができないことへのメンタルに
かなり弱ってきていた時期で、
焦りもあったからか、うなずいてしまった。
ずっと寝たきりで体力も失っている私は、
途中にベッドがなく休憩できない廊下に出て
トイレまでの道のりへ繰り出すことは、
かなりの恐怖だった。
一歩一歩、着実に歩く。
大丈夫、まだいける。
半分くらい来た途端に、激しい恐怖が襲ってきた。
「ここまできたら引き返せない。行き切らないといけない」
緊張感で頭がいっぱいになり、
冷や汗がタラタラと 出始める。
血の気が引いてきた。
目の前がチカチカする。
耳が水中に浸かっていくように、
周囲の音が曇ってきた。
さらに、気道が閉じていく。
空気を吸っても吐いても、息が微かにしか通らない
呼吸が、できない、、
「〜さん!大丈夫ですか!!誰か呼んで!!」
消えそうになる意識の中、
耳と頭だけは絶対にここにいようと、
意識を研ぎ澄ました。
医療学部生なので、危機迫った時こそ
なぜかすごく冷静で、色々考えていた。
どうせ死ぬやつじゃないんだ。
この感覚、覚えておこう。
呼吸ができなくなるんだな、耳も遠のいていくのか、
冷や汗すごいな、気持ち悪いな、
、、、
目を開けると、大勢の人の顔がこちらを覗き込んでいた。
もう大丈夫だということを伝えようと
声を発してみた。
「…迷走神経反射ですか?」