高いところから落ちるときは、案外ゆっくりに見える。このビルの真下にある湖に届くよう大きくジャンプしたから尚更だ。大空でペダルを漕いだ。シャツが膨らんで背中が空に押されたのを感じられた。僕は為すべくしてそうしたのだと実感し、太陽を見た。だんだん遠ざかる光に、つい夢中になってしまう。世界が僕に手を振った。一瞬、風に煽られてふわりと浮いた。僕の世界はもうすぐ終わる。
いや、0になるだけだった。100として保存されるうんと前にリセットになる。地上0メートルから始まる夢かもしれない。でもマイナスよりマシだ。
私はこの部屋がお気に入りなんだ。
少し狭いけど、普段から片付けていればそこまで窮屈には感じない。そういえば昨日の朝、あの人が置いていった物をたくさんゴミにだしたんだった。だから少しゆったりと感じるのね。私ったら少し潔癖でさ、人が置いていったものを留めるのはストレスなんだ。
あの人は何も無いところでもスニッフィングのようなことをする癖があった。近所の人に勘付かれないよう、よく鼻の右側を塞いだ手を下げていた。でもそれも昨日でおしまいね。早めにゴミを捨てておいてよかった。あなたがいなくなった途端、空っぽになったこの部屋。
私はこの部屋がお気に入りなんだ。
もうちょい待ってて! セミを炒めるのは時間がかかるんだ。
12年前、この場所で生まれ変わるべきだった。そうすれば今もあの頃のように眠れただろうに。
どうしたものか。誰もがみんな、って言った途端、ここにいた全員消えちまったんだ。一旦、自分のなかで状況を整理して落ち着いて周りを見ていったが、人がいる気配は全くない。どうしちまったんだろうか。自分が、疲れているだけ? さっきまで となりに いた のに あれ、 じ ぶん が わ か ら な い 。