さわさわと音立てるのは
その穂か 僕の胸か
同じ光を見ながら言った
『きれいだね』
あなたには届かなくて
月灯りに揺れる影だけが
小さく頷いた
【ススキ】
『ほんとに女の子だ』
そう言って君が笑った。
何ヶ月も続いた文字だけのやりとりを
『遊びに行っていい?』そう言って終わらせた君は
想像していたよりもずっと華奢で
だけど想像していた通り 無邪気な女の子だった。
同じ年齢で 同じような傷を抱えて
バーチャル世界に逃げ込んだ私たちは
離れた場所にいたはずなのに、確かに出会って
異性だったら恋に堕ちるようなスピードで仲良くなった。
出会った頃は未成年だった私たちが
お酒を飲める歳になって
それぞれにパートナーを得て
家族を増やして
『おばあちゃんになったら さ…』なんて
未来の話をしたよね。
それなのに
君はおばあちゃんにならないことを選んだ。
ねぇ?
目を閉じて浮かぶのは
初めて会ったあの日に一緒に見たイルミネーションで。
何をどうしたら、一緒におばあちゃんになれたのか?
今も そればかり考えてる。
【脳裏】
文字で伝える『おはよう』や『おやすみ』
送られてくるきみの見た世界
耳もとで笑うかすれた声
繰り返す毎日の中で
あきれるほど大切にしてきたそれさえ
意味がなくなってしまう
きみに触れてしまったら
その温度を知ってしまったら
ぜんぶが無機質な機械の中
遠く 遠く 感じてしまう
それでも
それでも
意味のないそれを繰り返すことが
離れたきみを思うことが
戻ってきた現実を
次に会える日までの日々を
生きてくための支えになるから
今日もきみに送る
『おはよう』
【意味がないこと】
あなた と、わたし
コーヒー と、砂糖 みたい。
あなた は、わたし を 染めるばかりで
あなた は、わたし に 染まらない。
だけど、ねぇ?
確実に甘くなるその味に
わたし は 満たされて
いくらでも溶けていけるの。
【あなたとわたし】