阿利枝

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6/14/2024, 12:15:38 PM

【あいまいな空】

 日が傾き、夜の気配が近づく頃。遠くに見える空が不思議な色合いを帯びて、魅せられることがある。赤、青、紫、単純な色の名前では言い表せないような雄大で神秘的な光景。その一部を切り取って、写真の中に収められたら――と思うタイミングはだいたい運転中である。山中、カーブ、ゆとりのない道幅。帰宅ラッシュの最中に路肩に停めて悠長に撮影、なんてできるはずもなく。
 最も美しいベストポジションを通り過ぎ、しょんぼり岐路を辿るのはまあ、お約束だったりする。

6/13/2024, 11:40:26 AM

【あじさい】

 花に興味がないせいか、花瓶に活けられた紫陽花を見て「ああもうそんな季節か」と思うだけだ。風流を理解できれば魅力的な人間になれるのかもしれない、が、机に飾られたそれを見て「花がある」としか感想を抱かない辺り、あまり望みはなさそうだ。

6/12/2024, 10:44:36 AM

【好き嫌い】

 嫌いな物はニンジン、トマト、春菊などクセが強いもの。しかし実際、嫌いと言えるようになったのは大人になってからだ。幼い頃、好き嫌いでヘソを曲げる機会はなかった。とにかく父が怖かった。怒鳴られたくないので、何とか口に押し込んでいた。
 今は「嫌いだけど!?」と笑いつつ、食卓に上る野菜を食べている。苦手なことには変わらない。ただ、父も老いて丸くなった。それだけの時が経っているのだと、ふとした瞬間に気づかされてしまうのだ。

6/11/2024, 11:34:44 AM

【街】

 まだ社会人になって間もなかった頃、研修中の宿泊施設から空を見上げて「星があんまり見えないなぁ」と思ったことがあった。
 研修先は東京のように発展しているわけではない、地方の街だ。地元より道路の幅が広くて、山の稜線なんてそう簡単には見えなくて、でもやっぱり田舎の街、と余人には言われそうな場所。それでも星の光は遠かったし、慣れない環境で息は詰まるばかりだった。
 空の高さなんて変わらないはずなのに、立っている場所でこんなにも違いを感じてしまうのは何故なのか。あの日、あの場所で見た夜空は今も変わらないのだろうか。そんなことを考えながら、田舎の山の、虫の声がけたたましい夜を過ごしている。

6/10/2024, 11:15:57 AM

【やりたいこと】

 不思議な話だが、「やりたいこと」がいつの間にか「やらなければならないこと」に変わっていることがある。自覚なく追い詰められて、ふとした瞬間に「嫌だ」と気づいてしまったが最後、それまで築いたものを残らず全て投げ捨てたくなってしまう。それを生真面目と呼ぶのか、融通が利かないと呼ぶのかは分からないが、こうして捨ててきたものは今までにいくつあっただろう。指折り数えてしまうとさらに落ち込みそうなので、とりあえず猫の動画でも眺めていようか。
 

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