"誰よりも"
誰よりも、愛していた。
たった6年、周りの同じように愛する人よりも断然少ない期間だったけれど、兎にも角にも私はそれを愛していた。
整った環境でそれを磨き上げる機会をもぎ取り
より深くそれを知る事ができた。
楽しかった。
ありえないほど大変だったが、好きだったから続けていたし、やればやるほど好きになった。
愛しているという気持ちには自信があった。
少なくとも、あいつよりもそれを愛していた
同級生のあいつ。無自覚のうちに私の邪魔をして
私を追い出したくせに被害者ヅラで泣き喚くあいつ。
反吐が出る。虫唾が走る。殺意が湧いた。
私の全てを奪ったあいつを、私は許さない。
誰よりも。
"10年後の私から届いた手紙"
静けさが恐ろしい夜だった。
ただ椅子に座り、静寂に身を任せて机のライトを見つめていた
目の前にはぐちゃぐちゃになった便箋と、インクの無くなったボールペン
痛い
乱暴に便箋を扱ったせいで浅いが手が切れていた
何がしたいのか
哀れな自らに同情して、侮蔑した。
ただ、ただ茫然として時間を無駄に浪費していた。
こんなことをして、何になる
御伽話に浮かされて、届いてほしいと希うなど抱腹絶倒。
愚かだ。
肺の澱んだ空気を一気に吐き出し
10年前へ届くことを祈って、ゴミ箱に放り出した
"バレンタイン"
最初に目を逸らしたのは、どちらだったっけ。
部屋を片付けながら思い出している
物を掴み移動させる四肢に、必要以上の意識を向けて
これはここ、これは…ここの方がわかりやすい
これ前探してたやつ。ここに置いとこ
珍しく順調だったが面倒になって、近くにあったトートバッグに全部突っ込んでクローゼットに押し込める。
暑い
部屋の温度には気が回っておらず、片付け擬きが終わった直後にそう感じた。
窓の鍵に手を伸ばして、開けると雨戸越しに涼しい風がささやかに入り込んでくる
空気が美味しい、とはこのことか
新鮮な空気を肺に送り込んで、
ふと下に目をやると、蜘蛛がいた
丁度窓のレーンのところ
ズバッと窓を閉めて手早く鍵を閉める
素知らぬ顔でスススッと窓を登っている
外側なのを確認して、邪魔された腹いせにデコピンをかました。変わらず素知らぬ顔。こちらにも気付いていない
暑い
我慢できないほどではないけれど
溶けてしまわないかな
机の上にある小さな紙袋に入ったチョコレートを手に取る
誰かに渡すため。の、チョコレート
渡す相手は、いると言えばいる。
紙袋から取り出して、六角形で綺麗に包装された箱を撫でる
高かったな、万年金欠の私には結構な痛手
けれども買わない選択肢がなかった。
結局無駄になってしまった気もするのだけど。
素晴らしく虚しいそれの、横に張り付いたテープを剥がす
思っていたよりもベッタリと張り付いていて、綺麗に剥がしたつもりでも音を立てて破れてしまった
少しむっとして手に粘着剤が張り付くのを感じながら蓋を開けた
入っていたチョコレートは9つ
一番目についたカカオの形をした金粉が混ぜ込められたチョコレートを手に取って、口に放り込む。
噛み砕くとやはり柔らかくて、ほろ苦いビターな風味が口の中で広がった。
甘い方が、好きだな。
"待ってて"
私なんかのために儚くなった君を思い出す。
柔らかくって愛しい笑顔が瞼の裏に焼き付いて離れない。
会いたいのに
電車に揺られながら、浸っていた。
君が隣にいないのに、もうずっと声を聞いていないのに
君がここにいたならばという思考は留まるところを知らず
私を一層惨めにする
君ひとりいなくても、私の人生は楽しい。
だから 困る。
君のいない人生に悲観して、絶望しているならば
君が私の人生を呪ってくれていたならば
どれだけ救われたのかな
ずっと、会いたい。
"伝えたい"
いつか君と見た夜空を見上げて、私は泣いていた。
心の奥がぎゅっと締め付けられて苦しい。
一等輝く星を見ているからだとわかっているけれど、どうにも目が離せない。
君の柔らかくって愛しい咲顔を思い出せる気がするから
ずっとずっと伝えたかった。
でも伝える勇気も時間も無かった。
二度と会えない君に、
「ずっと、大嫌いだったよ。」
最大の愛を込めて。