『白い吐息』
吐息を白い薔薇に変えて、部屋中に飾って想い人に逢えない淋しさを慰める。
そんなことを歌った曲があった。
しんと冷えた部屋の中で、ほう、とついた溜め息が白い薔薇に変わる。
それを手のひらに乗せて、窓辺や戸棚の上にひとつずつ飾る女性。
とても美しい情景だと思ったけれど、飾られた薔薇が多ければ多いほど、曲の主人公は想い人に蔑ろにされ、独り淋しい日を過ごしているのだ。
部屋中が薔薇でいっぱいになった時、彼女は何を思うのだろう。
――何が、起こるのだろう。
静かな別れか、
それとも薔薇を真紅に変える何か、か。
うん、まあ、不倫の歌でもあったんだよね。
『きらめく街並み』
十二月に入ると、街のあちこちが美しく飾りつけられる。
眼福眼福と歩きながら眺めているけれど、そういった派手さのない、ささやかに飾りつけられた民家も好きだ。
住人の為人が見えるような気がする。
見て!見て!と強く自己主張しているもの。
あの、えっと、そういうつもりはないんです、ただちょっと、いつもより少しだけオシャレにしたいなって
という感じのもの。
特にはそういうのに興味はないんですけどね、まあ、強いて言えば、ここのところね、ココ、これがちょっとしたこだわりでね、と一点に絞ったもの。などなど。
そんな街並みが微笑ましい時期。
『秘密の手紙』
秘かに仕舞われていた
密書に認められたソレ
のぞまぬ内容に腹立ち
手でカサリと握り潰す
紙の古びた匂いがした
『冬の足音』
師走に入ってもまだ少し暖かかったのが、昨日今日とで急に寒くなった。
昨夜は雹が降った。
カタンコトン、パラパラパラ。
雨予報が出ていたけれど、これは雨の音じゃないなと外に出てみたら、黒い道路に白い真珠みたいなものが無数に転がっていた。
手のひらに乗せても、ちっとも溶けない。
豆撒きみたいに道路に投げて、また部屋に戻った。
カタンコトン、パラパラパラ。
雨音よりも硬質で、冷えた音がした。
『霜降る朝』
霜柱が立つにはまだ早い。
けれどそろそろ朝がつらい。
湯沸かし器のスイッチを入れないと、顔を洗う水が冷たい。
窓にはうっすらと結露がつき始めた。
家を出ると、自転車のサドルが白くモヤって見える。
――霜かぁ。
カゴに入れてあるタオルで拭くけれど、座ると冷たくてお尻のあたりがしっとり湿るんだよなぁ。
今日は帰りに綿入りのサドルカバーを探しに行くかな。