『上手くいかなくたっていい』
「どうして結婚しないんだ?」と周りは言う。
私が結婚しようがしまいが、その人には痛くも痒くもないことだろうに、熱心に、時にしつこく結婚を勧めてくる。
「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ、と言うだろう? 上手くいかなくたっていいんだ。まずは結婚してみろ」
懸賞金でも出ているのか。
私を結婚させたら五億円貰えるとか、そういう。
それにしても。
ふふ、誰が結婚していないなんて言った?
私たちの結婚生活は素晴らしかった。
ただ、他の人たちの結婚生活とはちょっと違っていたかもしれない。
私たちは世間から隠れて、ふたりだけになりたかった。
どうしたらそれが叶うか、考えに考え、いろんなことを試した。何度も何度も試した。
もう十年以上前のことだ。
私の伴侶は今、私に結婚を勧める人の隣であくびをしながらスマホを弄っている。
もちろん、気づかれていない。
上手くいかなくたっていい?
いいえ。
私たちは、この上なく上手くいっている。
『蝶よ花よ』
あの子が自分から家を出た、だなんて、そんなこと信じられません。
みなさんだってご存知でしょう?
あの子はまだ七歳なんです。
十歳だったら、もしかしたらそういうこともあるのかもしれません。
――いえ、それだって疑わしい。
ニュースにも取り上げられ、世間の目も集まり、あの子は有名になりました。
もはや、あの子の行方を探しているのは私だけではありません。
住所や本名は非公開とされていますが、そういうことを調べるのが得意な人はいくらでもいます。
暴き立てて騒ぐ人たちに興味はありません。
私はあの子を探し続けます。
だって、警察や消防が付近の川や池を虱潰しにさらっても、遺体はおろか所持品ひとつ見つからなかったそうじゃないですか。
私はあの子を探し続けます。
ええ、今度こそ、私の手から逃げ出さないように。
蝶よ花よと、大事に仕舞い込むのです。
『鐘の音』
二軒先のSさんは、子供の頃からたびたび見る夢があると言う。
なんでも、何かから逃げ続け、隠れ続け、最後には断崖絶壁から飛び降りるのだとか。
掌に何かを握りしめて。
そしてその瞬間、どこからか鐘の音が鳴り響くそうな。
「何度見てもさっぱり訳が分からない」とSさんは笑う。
ふと思いついてスマホを取り出し、動画サイトを検索して、とある鐘の音を聴かせてみると、Sさんはたいそう驚いた顔をしていた。
私がそれに気づいたのは、ある島の伝説を知っていたからだ。
でも、そのことはSさんには話さなかった。
これからもずっと、ただの「訳の分からない夢」であればいいと思う。
じっと耐えても、息を潜めて祈り続けても、彼らの神は遠かったのか。
Sさんは、これからもアンジェラスの鐘の音を夢の中で聴くのだろうか。
『つまらないことでも』
どんなにつまらないことでも、毎日書き続けることが大事。
そう分かっているのに、ちょっと気を抜くとこれだ。
どれくらい気を抜いていたかというと、熱中症になって点滴打たれて帰ってきたくらいの気の抜け方。
うん、命とり。
みんなも気を付けて。
その間、いくつのお題が流れていったことだろう。
またポチポチ文字を打とう。
ところで、今年は10月になってもまで暑いって本当?
『神様が舞い降りてきて、こう言った。』
「この世界の設定温度を35℃にした。上下10℃程度は誤差の範囲内とする。随時引き上げも検討している。生き残りたければ、順応するがよい」