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7/18/2024, 2:03:34 AM

『遠い日の記憶』

一番古い記憶といわれて真っ先に思い出すのが、ひとつの風景。

大きな窓枠。薄暗い室内。
窓の外には青々とした田んぼ。
真っ青な空。眩しいほどの日光。
おそらく夏。内と外の明暗のコントラスト。

その話を親戚にすると、それは私が赤ん坊の頃住んでいた家だと言う。
田んぼの横の一軒家で、まだハイハイもできない頃、ちょっとだけ借りていた家らしい。

「そういえばおまえ、そのころ野犬に襲われたんだぞ。物音がするから様子を見に行ったら、大きな黒い犬がおまえの上に乗っかっていてな」
「そうそう、大きな犬が口を開けて噛みつこうとしてるのに、キャッキャキャッキャ笑って喜んでいて、肝を冷やしたわ」

……はて、そんな記憶はないな。

7/17/2024, 7:36:14 AM

『空を見上げて心に浮かんだこと』


空を飛びたいと思ったことはないが、空に落書きをしたいと思ったことなら何度もある。

この空いっぱいにお絵描きしたら、さぞかし気持ちよかろう。
いや、絵心がないから、ちょっと描き加えるか色を変えるだけでもいい。

薄い曇り空なら、水色の線を
濃い曇り空なら、真紅の点を
雨空ならば、レモン色の雫を
雪空ならば、スミレ色の結晶を

快晴の青空には、そうだな……
やっぱり白が合うよね、真っ白な雲がベスト。

雲といえば、ふかふかの綿雲に乗って空を漂うのもいいな。

空を見上げると、よしなし事がいくらでも心に浮かんでくる。


7/16/2024, 9:56:43 AM

『終わりにしよう』


「ふう、もう今日は終わりにしよう」

モニターを眺め疲れた眉間をぐりぐりと揉んで、首を左右に傾ける。

画面の中では、かつては青く美しかった彼の作品が、随分と色褪せ、赤茶色に変色してきていた。

「だいぶ濁ってきたなぁ」

それに煩雑で喧しく、見ているだけで忙しない。以前は、もっとゆったりのんびり眺めていられたのに。

手を加えることもチラリと浮かんだが、もう手遅れな気がする。
いっそ作り直すか?
いや、面倒だな。


「もう、全部終わりにするか?」


いやしかし、と腕を組んで考える。
これでも結構、愛着があるのだ。
なにせ46億年も眺めていたのだから――


7/14/2024, 11:18:42 AM

『手を取り合って』

これまでずっと、過去に戻りたい、人生をやり直したいと思ってきた。

あの時、ああしていれば
あの時、あちらを選んでいれば
あの時、あれを諦めなければ

周囲と比べることはしなかったけれど、それは単に優越感や劣等感の対象を周りに求めなかったからだ。
自分が嫉妬するのは、あり得たであろう別の選択肢を選んだ自分。

実に滑稽。
みっともないこと、この上なし。

そんな自分が、近頃人生をやり直したいなんて、これっぽっちも思わなくなった。
この歳にしてようやく、である。

だって、どこからやり直す?
これまで何度、選択を間違えた?
それは本当に間違いだったか?
やり直したところで、死ぬまで失敗も後悔もしないなんてこと、ないよね?

それならいっそ、この滑稽でみっともない自分と手を取り合って、山あり谷あり奈落あり。
数多の失敗や間違いを笑い飛ばしてやろうじゃないか。


7/11/2024, 11:44:57 AM

『1件のLINE』


《目が覚めたら、今日のお題が替わっちゃってたんだよー😢》

そんなメッセージが表示されて微かに眉を寄せた。

《いろんな状況からスタートできるお題だったのにぃ》
《異常な状況下からのホラー風味とか》
《微睡みからのハートフルな日常ものとか》
《冷凍睡眠からのSFもいいよね》
《眠りじゃなくて精神的な何かから解き放たれた系もアリ》
《あ、異世界転生もの書いたことないから、それも書きたかったー!》

矢継ぎ早に流れてくる文章にため息をついて、スマホを確認する。

――うん、まだ電源入れてない。


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