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10/7/2025, 8:20:00 AM

【燃える葉】

燃える葉、火柱を上げる樹木、美しい庭園は火の粉に彩られ、わたくしの愛した邸宅が崩れ落ちる。
都は荒れ果て、人々は逃げ惑い、僧兵が大路を駆けずり回る。刀を振る彼らは、老婆を切り捨て、幼子を刺し、屍を踏みつけながら御所へと向かう。

のちのちの歴史よ、語るがいい。
いくら平家が悪しく描かれようと、いくら木曽が源氏が持て囃されようと、小さな真実はここにある。大きな歴史の前に、わたくしの真の歴史はここにある。

わたくしは平家の女ではない。けれどわたくしの夫はかの棟梁となるべきお方のお側に仕え、その強さと誠実さを誰よりも知っているのです。
だからこそわたくしはこの歴史を伝えたい。

小さな歴史を、決して忘れてほしくはない…と。

10/5/2025, 10:46:49 AM

【moonlight】

moonlight、月明かり。
君の顔がよく見える。
私の好きな君の顔。

少し釣り上がった目元、きりりとした眉。
筋の通った鼻、弓なりにしなる薄い唇。
細くてさらさらな髪、風に揺れて柔く靡く。

その隣を歩く私が、私は好きだった。

10/4/2025, 12:24:03 PM

【今日だけ許して】

今日だけは許して? …なにを、って?
あなた以外の人を想うこと、愛することを。

今日は私の大切なあの人が産まれた日なの。
だから1年間…365日のうちの1日くらい、
あなた以外の人を想ってもいいでしょう?

だって、あの人のおかげで私は私に確立し、
あなたと出会うことができたのだもの…。

10/4/2025, 1:52:46 AM

【誰か】

私はここにいます。
誰か私を見つけてください。
私はここにいるの…あなたの前に。

私の視線から目を離さないで、
私の涙をないものにしないで、
私の声をしっかりと聞いて、
私の手をすり抜けないで、
私の身体をしっかり抱いて、
私の近くから遠ざからないで、

私はここにいるのです。あなたの側に。
もしも誰かが――たとえばあなたが、
私を見つけてくれないのならば、
私がここに存在したその確かな証明を、
いったい誰がしてくれるのでしょうか。

10/1/2025, 3:41:11 PM

【秋の訪れ】

我が家の簾をひらりと揺らして、
きみが家の中を走り回る。
縁側に吊るした干し柿をつまんで、
囲炉裏の起こした炎を消して、
七輪で焼く魚の匂いに釣られてくる。

きみはいつもこの季節にやって来る。
私が寂しくないか確かめるように…。
そんな優しい子を我が子に持てて、
私は本当に、本当に幸せでした。

惜しむらくはきみの大人の姿を知らないこと。
それでもきっと、あなたは優しく思いやりのある、
素敵な男性に成長したのでしょうね…。

私の好きな赤いコスモスの花を持って、
あなたが手を引くあなたの子を…私の孫を、
毎年毎年こうして会わせてくれるのだから。

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