【燃える葉】
燃える葉、火柱を上げる樹木、美しい庭園は火の粉に彩られ、わたくしの愛した邸宅が崩れ落ちる。
都は荒れ果て、人々は逃げ惑い、僧兵が大路を駆けずり回る。刀を振る彼らは、老婆を切り捨て、幼子を刺し、屍を踏みつけながら御所へと向かう。
のちのちの歴史よ、語るがいい。
いくら平家が悪しく描かれようと、いくら木曽が源氏が持て囃されようと、小さな真実はここにある。大きな歴史の前に、わたくしの真の歴史はここにある。
わたくしは平家の女ではない。けれどわたくしの夫はかの棟梁となるべきお方のお側に仕え、その強さと誠実さを誰よりも知っているのです。
だからこそわたくしはこの歴史を伝えたい。
小さな歴史を、決して忘れてほしくはない…と。
【moonlight】
moonlight、月明かり。
君の顔がよく見える。
私の好きな君の顔。
少し釣り上がった目元、きりりとした眉。
筋の通った鼻、弓なりにしなる薄い唇。
細くてさらさらな髪、風に揺れて柔く靡く。
その隣を歩く私が、私は好きだった。
【今日だけ許して】
今日だけは許して? …なにを、って?
あなた以外の人を想うこと、愛することを。
今日は私の大切なあの人が産まれた日なの。
だから1年間…365日のうちの1日くらい、
あなた以外の人を想ってもいいでしょう?
だって、あの人のおかげで私は私に確立し、
あなたと出会うことができたのだもの…。
【誰か】
私はここにいます。
誰か私を見つけてください。
私はここにいるの…あなたの前に。
私の視線から目を離さないで、
私の涙をないものにしないで、
私の声をしっかりと聞いて、
私の手をすり抜けないで、
私の身体をしっかり抱いて、
私の近くから遠ざからないで、
私はここにいるのです。あなたの側に。
もしも誰かが――たとえばあなたが、
私を見つけてくれないのならば、
私がここに存在したその確かな証明を、
いったい誰がしてくれるのでしょうか。
【秋の訪れ】
我が家の簾をひらりと揺らして、
きみが家の中を走り回る。
縁側に吊るした干し柿をつまんで、
囲炉裏の起こした炎を消して、
七輪で焼く魚の匂いに釣られてくる。
きみはいつもこの季節にやって来る。
私が寂しくないか確かめるように…。
そんな優しい子を我が子に持てて、
私は本当に、本当に幸せでした。
惜しむらくはきみの大人の姿を知らないこと。
それでもきっと、あなたは優しく思いやりのある、
素敵な男性に成長したのでしょうね…。
私の好きな赤いコスモスの花を持って、
あなたが手を引くあなたの子を…私の孫を、
毎年毎年こうして会わせてくれるのだから。