【今日だけ許して】
今日だけは許して? …なにを、って?
あなた以外の人を想うこと、愛することを。
今日は私の大切なあの人が産まれた日なの。
だから1年間…365日のうちの1日くらい、
あなた以外の人を想ってもいいでしょう?
だって、あの人のおかげで私は私に確立し、
あなたと出会うことができたのだもの…。
【誰か】
私はここにいます。
誰か私を見つけてください。
私はここにいるの…あなたの前に。
私の視線から目を離さないで、
私の涙をないものにしないで、
私の声をしっかりと聞いて、
私の手をすり抜けないで、
私の身体をしっかり抱いて、
私の近くから遠ざからないで、
私はここにいるのです。あなたの側に。
もしも誰かが――たとえばあなたが、
私を見つけてくれないのならば、
私がここに存在したその確かな証明を、
いったい誰がしてくれるのでしょうか。
【秋の訪れ】
我が家の簾をひらりと揺らして、
きみが家の中を走り回る。
縁側に吊るした干し柿をつまんで、
囲炉裏の起こした炎を消して、
七輪で焼く魚の匂いに釣られてくる。
きみはいつもこの季節にやって来る。
私が寂しくないか確かめるように…。
そんな優しい子を我が子に持てて、
私は本当に、本当に幸せでした。
惜しむらくはきみの大人の姿を知らないこと。
それでもきっと、あなたは優しく思いやりのある、
素敵な男性に成長したのでしょうね…。
私の好きな赤いコスモスの花を持って、
あなたが手を引くあなたの子を…私の孫を、
毎年毎年こうして会わせてくれるのだから。
【旅は続く】
それでも、旅は続く。
行き先も分からず、目的も分からず。
ただ同じ過程を繰り返すだけの旅―――。
だけどひとつだけ分かるのは、
その旅が、私のただひとつの望みだということ。
その先に願ったことはすでに擦り切れ、
白紙に向かうような道だとわかっていても、
旅を続ける――それだけが私を維持する。
何百万、何千万、数億の旅を続けようとも、
私が私である限り、旅は終わらない。
【永遠なんて、ないけれど】
ここにあの人の遺した言葉がある。
軌跡が、文書となり、文書が、石碑となり、
石碑が、歴史となり、歴史が、紡がれる。
永遠なんて、ないけれど―――永遠は確かにある。
けれど只人である私たちに、
永遠は…存在しないのでしょう。
それは神に愛された者たちだけに与えられるものだから。