12月21日(木)
とても暇だ。ずっと薄暗い館の中、椅子に座り続けている。こんな状態で何年間も一人でいたから、思考回路がおかしくなっていたんだと思う。
「今日から店を始めよう」
誰もいない館に、この一言が響く。さて、善は急げということで、早速開店の準備をしなければ。訳のわからない使命感に駆られ、久々に館から足を踏み出した。
店を開くと言っても、何が必要なのだろうか。街に行き、歩いている途中にふと思う。見本を見ればなんとなく分かるだろうと、喫茶店へ行くことにした。
窓から店内を覗いてみる。テーブル、椅子、カウンター、料理を作るための器具…意外とたくさんあるなと呑気に感想を述べた。
どこかでベルの音が鳴る。音が鳴ったほうを見ると、ちょうど客が入店したところだった。その音に、少し不快感を感じた。なにか雑音が混ざっている気がした。その不快感を何故感じたのか理由を探るため、ベルを売っている店に行った。
…結論としては、なぜそう感じたのかは不明のままだった。しかし、このまま店を始めたとしてもろくな事にはならないことは分かった。そのため、店を始めるのを断念することはした。
12月16日(土)
今日の朝、この館を出ていった彼女を見て、風邪を引かないのかと疑問に思う。私はもう風邪を引きはしないだろうから、風邪だなんて言葉が出たのも久々だ。最近は久々なものが多いな…
12月15日(金)
しんしんと雪の降る日、
「一晩留めていただけませんか」
そんな声が聞こえた。この館の扉が開くのは何時ぶりだろう。この言葉を聞き、私はとても喜んだ。階段を下り玄関へと急いだ。
玄関の扉を開けると、顔が青白くなっている女性が立っていた。ボロボロのフードを被って震えている。私は彼女を館に招き入れた。
彼女にココアを差し出したが、ぎょっとしたような顔をして、
「すみません。ココアは苦手でして…」
と断られてしまった。ならばと思い、マフラーを渡した。渋々彼女は受け取ってくれた。
12月16日(土)
朝になり、彼女はお礼を言うと帰っていった。朝ごはんに目玉焼きでもと思い差し出したが、またもや断られてしまった。貴重な人間だっただけに、食べ物を食べてもらえなかったことをとても悔いたが、きっと、次の雪の降る日に彼女はまた訪れるだろう。そのときにでも、何か食べ物を食べてもらおう。