nanao

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5/22/2023, 11:27:48 AM

昨日へのさよなら、明日への出会い

(a)

昨日までの自分にさよならできたら、どんなにか楽だろう。
そうしたら新しい自分に、誰かに出会えるのだろうか。

でも、私は明日も私を続けていく。
ほんの少しの諦めと、我慢と、変わらなくていい安堵感とともに。

だからまだ、私に明日への出会いは来ない。
出会いがあれば明日が来る、そんな夢にまどろみながら、変わらないための言い訳を考えている。


(b)

いったん死んで異世界転生……
は難しいから、死んだつもりで会社をやめた。

退職したら収入がない。
そうなったら生きていけない。

長いことそう怯えてきたけれど、いざやってみたらそれは単なる思い込みだった。

予想外だったのは想像できない明日が来ることだ。
会社にいるときは明日の予定どころか、十年後まで見通せるような気がしていた。けれど今は違う。

用意された道は消えた。
今目の前に広がるのは、360度どこへ行こうと自由な世界だ。
少し怖いけど、進んでみよう。
新しい自分に、何かに出会うために。

5/21/2023, 2:27:33 PM

透明な水

(a)

「泣いてなんかない、ただの水よ」

彼女は言う。

けれど透明な水に見えるそれは、元々は血液でできているのだと知っている。

あまりにも美しい流血を前に、僕は何も言えなかった。


(b)

その水があまりにも透き通っているから、覗き込んだ者は自らの姿をまざまざと映し出されることになる。

くれぐれも遊び半分に関わらぬことだ。
でないと後悔するやも知れぬ。

自らの中の魔が、自身に牙を剥くかもしれぬ。



(思いつくままの2篇を覚え書きに)

5/20/2023, 3:19:01 PM

理想のあなた

『理想の恋人、作ります』

その店の看板にひかれて中に入った。
店員に渡されたオーダーシートに、私の希望を書いていくのだという。

容姿? それはもちろん格好よく……なくてもいいな。あまりに格好良すぎると、他の誰かに奪われてしまいそう。
性格? そうだなあ、優しくて、強くて、誠実で。それから食べることが好き。ご飯やおやつを美味しいね、と一緒に食べてくれる人。

そこまで書いてペンを置く。
ごめんなさい、と店を出た。

だってそんな人ならもう知っている。
隣に住んでるあの人だ。

駅前の店でケーキを買って帰ろう。
そして二人でお茶をいれて、美味しいね、と食べるのだ。


5/19/2023, 12:41:57 PM

突然の別れ

夜中、不意に電話が鳴った。
こんな時間に誰かと画面を見てみれば、実家の母だ。
その瞬間、ああもしかして、と脳裏に父の顔が浮かんだ。

「もしもし」
「あのね、お父さんが……」

慌てた様子の母の声は、父の危篤を知らせるものだった。
嫌な予感は当たるものだ。

いつか先輩が言っていたことを思い出す。

『離れて暮らす相手にさ、一ヶ月に一日会うとするでしょ。そうすると一年で十二日。もし相手の寿命があと十年としたら、たった四ヶ月くらいしか一緒に過ごせないんだよね』

急いで家を出たが、病院に着く前に、父は旅立ってしまっていた。
ありがとうも、さようならも言うことができなかった。

別れは突然やってくる。
世間ではよく言われることだけど、実際はちっともわかっていなかった。

5/19/2023, 12:46:45 AM

恋物語

一挙一動が目にとまる。
話す声が、他の誰のおしゃべりよりもスッと耳に入ってくる。
それが恋だったのだと、あとになって気づいた。

今、君はここにいない。
ただ、あの頃の笑い声が、表情が、いつまでも胸に残って、チリチリと胸の奥を焼いている。

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