仁科まい

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7/13/2024, 8:21:53 AM

【これまでずっと】

これまでずっと、私は薄暗い部屋の中に1人だった。
モノクロの世界で1人、ただ同じ毎日を繰り返すだけ。

朝起きて、検査を受ける。
実験といって大人達は薬を飲ませてくる。
苦い、ふわふわする。
大人達が何か書いている。
…それの、繰り返し。

これまでずっと、施設と呼ばれる場所だけで暮らしていた。
でもある日…その施設は燃えてしまった。
大人達は皆、私を置いて逃げていった。

「監視がいない、逃げるなら今だよ」

どこからかそんな声が聞こえた。
逃げる。逃げる?…どこに?
どこに行けばよいか、どうすれば良いか何も分からないけれど、私の足は外へ。
初めての外。初めての自由。
あの声の人を探したら、何か教えてもらえるかな。
どこにいるのか全く分からないけれど、きっと、近くにいるはず。


もし会えたら、これからはモノクロの世界は変わるのかな。

7/12/2024, 7:26:29 AM

【1件のLINE】

ピコン、とメッセージを知らせる音が1つ。
足を止めてスマホを見た。

『今何してるの?』

好きな人や仲の良い友人からであれば嬉しいものだが、仲の悪い身内からのもの。

─はぁ。
眉を下げ、小さなため息が出た。
無視したいけど、それをすれば鬼のような着信と追いメッセージを送ってくる。
嫌だなぁ。でも、話したくもない。

表情が曇った私を見た友人達は心配そうに「何かあった?」「大丈夫?」と声を掛けてくれる。
優しい子達だ。笑顔を作って「何でもないよ」と返し、再び歩き出した。

あの家にはもう帰りたくない。
スマホの電源を切ってバッグの中へ。

送られたメッセージが『昨日は叩いてごめんね』だったら、帰ったかもしれない。
もう二度と、あの場所には帰らない。

7/11/2024, 8:24:04 AM

【目が覚めると】

朝、目を覚まして
私はいつも「まだ生きていた」と思ってしまう。

目を覚ましても、周りからは冷たい目。
目を覚ましても、いない者のように扱われる。
目を覚ましても、つらい人生。

現実なんて見たくない。
再び目を瞑った。

目が覚めたら、違う世界にいたら良いのに。
目が覚めたら、愛される人になっていたら良いのに。
目が覚めたら、幸せな人生を送れたら良いのに。

願うだけなら許されたい。
普通の人の、普通の人生を送りたい。


目が覚めたら…を願って、私は今日も眠りにつく。
休日の二度寝だけが、私の幸せ。

7/10/2024, 7:00:35 AM

【私の当たり前】

朝起きて、身支度を整えたりご飯を食べたり、ニュースを見てから家を出る。

いつもの道を歩いて、いつもの電車に乗って、いつもの場所へと向かう。笑顔で挨拶。
与えられた事をこなして、言われた通りにやって。たまに怒られて。

定時で帰れないのは当たり前。
スーパーによる体力がないのは当たり前。
真っ暗な部屋に「ただいま」と言うのも当たり前。
1人でご飯を食べるのも当たり前。


このくらい当たり前にできるでしょう?
こんなのできて当たり前。
普通の人なら当たり前にできるよね。


いつも聞く言葉を思い出して、胸が苦しくなった。
その当たり前が、普通が、……私には苦しい。
見えないもの程理解されにくい。
私が持っているものは、普通の人には分からない。

当たり前にできる力が、欲しい。
普通の人の当たり前を、私も当たり前にしたい。

7/8/2024, 2:22:09 PM

【街の灯り】

コツ、コツ…
外灯にぼんやりと照らされた道を歩く足音が1つ。

つい数日前までは、他に2つあった。
…生涯を共にしようと約束した者と、その子ども。

仕事を終えて帰ってみれば、家も、家族も、2人の未来と共に全て消えていた。燃えカスになっていた。
愉快犯による放火のせいで、私は何もかも失った。喪ってしまった。

復讐?考えた、考えたさ。
したところで2人が帰ってくるわけがない。
そう考えれば、復讐の意味なんて……ない。

灯りが消え掛けている。
私が消えるのも、もう少しだ。

街を出て、浜へと向かう。

─今日は月がよく見える。
ちゃぷ。…入るにはまだ少し冷たいや。
3人で海に行く約束を果たせなかった事が心残りだが、いないものは…しょうがない。
外灯と私の命、どちらが消えるのが先だろうか。

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